26(クルビス視点)
「申し訳ない。クルビス隊長はまだ蜜月なんだ。出来れば許してやって頂きたい。無理してるんだよ。」
「蜜月…。い、いえ。そういうことなら。気にしてませんので。」
キィが俺を擁護する発言をすると、主犯の男は目を見開いて驚いていた。
しかし、ドラゴンの伴侶への執着は知っていたのか、慌てて首を振って気にしていないと言い添える。
初めて魔素が揺れたな。
まあ、驚くのも無理はない。
自分でも思うが、これだけ濃いドラゴンの血を持っていて、蜜月で伴侶と離れられる男はいないだろう。
実際、かなり無理をしている。
昔、伴侶との距離が離れれば離れるほど気が狂いそうになると父が言っていたが、成る程、この感覚か。
これまで誤魔化しながらきたが、これはキツイ。身が千切れそうだ。
仕事で離れる回数をこなしていたからこれまで何とかなっていたが、目的の詐欺師が捕まってしまった今は、とっととハルカを迎えに行きたい。
さっさとしゃべってしまえ。そうすれば迎えにいける。
「心配性なんだよ。ほら、クルビス隊長の伴侶は北西の転移局で仕事してるけど、こんな危ないものが送られてきたから。」
キィが例の箱を見せながら、さらに俺を擁護するような発言をする。
そんなこと、今さら言われなくても相手も知ってるだろうに。ん?
「あ、あの。く、クルビス隊長の伴侶様は、中央局に移られたのでは?」
主犯の男は今までの余裕がウソのように魔素が動揺で揺れている。
中央局?どうしてハルカが中央局に移るんだ?
「?いや。北西の転移局で術士として活躍されてるよ。これを受け取ったのもその伴侶殿だ。」
キィが答えると、主犯の男は灰色の体色の輝きが無くなるほど驚き、怯えた魔素を隠しもしなくなった。
俺の方をちらちらと見ているが、捕まえた以上、別に何もする気はないんだが。
しかし、このままの方が都合が良さそうなので、『うっかり』魔素を少しだけもらしてしまう。
すると、ますます怯えて俺の方を凝視する。
ふん。せいぜい怯えろ。
命まで取らないだけマシだと思え。
カッカッ
重苦しい空気の中、ドアのノック音が響き渡る。
キィが許可を出すと入って来たのはシードにキーファ、それにリリィだった。
「クルビス隊長。交代に来ました。キーファ隊長とリリィ隊長は報告があるそうです。一度、外へ出て頂けますか?」
シードがピリピリした室内でいつものように報告する。
室内にいる隊士たちにそのまま見張るように言って、俺たちは外に出た。
交代と言ったが、俺の限界を見極めて来てくれたんだろう。
シードもかなり走り回って疲れてるだろうに。
いつもすまない、と目線で謝ると気にするなと視線が返ってくる。
ハルカと出会ってから、シードの助けを借りてばかりだ。この恩はどこかで返さなければ。