25(クルビス視点)
「印がない?では、それは小道具では?私の勤めている劇場にもございますよ。ええ。もちろん他様にも。劇ではありふれた小道具ですから。いったい何処で盗まれたのでしょうねえ…。」
どこまでもしらを切る気か。
いつかは逃げる機会が来ると思っているのか。
「でもなあ。この箱、お前さんが勤めてた劇場にあったのと同じ箱だって、ベテランの技術者が証言してくれたんだ。工房の技術者も自分の所で作ったものだって言ってたなあ。」
「では、うちの劇場に泥棒が?何て恐ろしい。隊長さん。どうか、早く捕まえて下さい。このままでは皆不安で劇に支障が出てしまいます。」
ああいえばこういうとは、まさにこのことだな。
よくもまあ、こうポンポン返せるものだ。
うっとおしい魔素は未だしおらしい雰囲気を演出しているし、傍から見てたら職場を案じる善良な一市民に見えるな。
ここまで本当のことを告げられて僅かにも魔素が揺れないとは、ある意味感心してしまう。
だから、ここまで詐欺師として生き残ったのだろうが。
しかし、思った以上に手ごわい相手だ。
このままでは、俺が席を外すのは難しいかもしれない。
くそっ。ハルカを迎えに行けない。
「ひっ。」
ん?怯えた魔素?主犯の男からか。キィたちからも、こちらに視線が寄越される。
どうして…。ああ。俺の魔素がもれたか。
仕方ないだろう。お前のせいだ。主犯の男。
別に脅したわけでもないし、非難されるいわれはない。
「すまない。そろそろ伴侶を迎えに行く時間なんだ。落ち着かなくて、魔素が揺れてしまった。」
この調書は記録玉も使っているから、俺もしおらしく謝っておく。
手も出していないし、これで俺が脅したわけではないという証明になる。
今回の記録玉は特別製だしな。音声だけでなく映像も記録できる。
深緑の森の一族の長さまが開発されたが、作れるのが長さまだけとあって、あまり普及はしていない。
これも北の守備隊に置いてある3つのうちの貴重な1つだ。
わざわざ映像も記録できるものにしたのは、他の地域の守備隊と調書の内容を照らし合わせる時に、映像もあった方がわかり易いだろうという意見が出たからだ。
おかげで俺の身の潔白も証明される。
だが、そう頻繁に魔素を漏れさせるわけにはいかないな。気をつけなければ。