22(クルビス視点)
事務室を捜索した所、劇の小道具として箱の大量発注の書類があった。
正式な謝罪はなくなったと聞いてホッとしてる支配人に他の箱を見せてもらう。
「こちらが今回の劇で使用している箱と同じものです。上から印を張り付けていますが、すぐにはがせます。」
たしか、今上演してるのは、やり手の商会の主とカフェの娘の恋話だ。
成る程、商会の荷として舞台に出してるわけか。
箱には商会のマークを焼印風に染めた布が張り付けられている。
実際の印はかなり小さいが、これは客席から印がよく見えるようにかなり大きいのが張ってあるな。
この細工をするために印無しで発注したわけか。
わざわざ発注品でそろえるなんて、小道具にしては金がかかっているな。
しかし、大きさといい材質といい良く似ている。
俺はそこまで詳しくないが、箱の作りかたは工房ごとで違うらしい、経験をつんだ技術者に見てもらわなければ。
「似てるな。」
「ああ。」
「…この箱、いつもはどこに?」
俺とキィが箱を仔細に観察している間にキーファが支配人に尋ねる。
キィはある程度見て、箱をキーファに渡すと近くにいた年長の技術者と話し出した。
知り合いなのか。
どうやら、箱の特徴について話してるみたいだな。まかせよう。
「そこらに積んであります。小道具ですが、実用品として揃えました。発注品なので、少し重い小道具もしまえますし、積み重ねても壊れません。」
成る程、箱なんて数だけ揃えても邪魔だしな。
それなら丈夫な発注品で中に荷物でもいれて、積み重ねれば使える。
「成る程。合理的ですね。」
「東はこうしてるんです。北は道具専用の部屋を作るようですが、出来れば役者や技術者の方たちの控室にしたくて。」
キーファが感心すると、支配人は少し照れたように話す。
地区が違えば劇場だって色々と違うことが多い。戸惑っただろうな。
そんな話をしてるうちにキィが近くの技術者と話を終えて一緒に戻ってくる。
どうやら、例の箱を見てもらえることになったらしい。
「支配人、すみませんが箱を1つとゼフさんを借りていきますよ。実は知り合いでして、技術者の方に見て頂きたいものがあるので、ご協力をお願いしたいんです。」
キィが支配人に話をしてる間に技術者の男性が「ヘビの一族、ゼフと申します。」と名乗ってくれた。
目の周りのシワや鱗の艶から考えて、かなり年配の方だとわかる。
これだけ経験がありそうな技術者なら、箱を見ればどこの工房で作られたかわかるかもしれない。
相変わらず、キィの顔の広さには関心する。
「ええ。ゼフさんがよろしいなら、もちろん構いません。箱もお持ちください。今日の作業はもう終わったと聞いてますし、ゼフさんは守備隊での御用が終わったらそのまま家に帰ってもらって結構ですので。」
「ありがとうございます。支配人。ではまた明日。」
「はい。お疲れさまです。ゼフさん。また明日。」
にこやかに承知した支配人にゼフさんは胸に手をあてる。
俺たちも礼を言って劇場を出た。
「いい支配人だな。ゼフさん。」
「ああ。俺たちの仕事に敬意を払って下さるし、周りをよく気遣って下さる。良い方が来て下さったよ。」
どうやらあの支配人は慕われているようだ。
これなら、支配人自身の気質も申し分ないし、劇場の立て直しも上手くだろう。