21(クルビス視点)
気になるウワサだったが、劇のことが確実ならまた情報は手に入るだろう。
放っておいても、隣で笑ってるキィが仕入れてくるだろうしな。
劇場の横、裏手へ回る道でキーファは待っていた。
情報操作は終わったようだな。
「お疲れ様です。一通り捜索は終わりました。何も発見はありませんでしたが、逆に支配人は喜んでいました。」
まずは俺たちに簡潔に報告だ。
キーファが一声かけた瞬間から、俺とキィとキーファを囲むように防音を兼ねた風の魔素がめぐらされる。
結界より音が出るが、外で話してる様子なのに無音なのもかえって目を引く。
だから、適度に風で音を散らしつつ、話てるのに良く聞こえないという形を取る。
これはキィの手法で、キィは立場が高いにも関わらず、一族の反対を押し切って守備隊に入ったため、北地区で青の一族らは常に様子を伺っていた。
そのため、この術式を編み出したらしい。
魔素の無駄を極力なくし、周りから不自然に思われない程度に風を操る。
その緻密な魔素の扱いが後に隊長に抜擢される理由にもなるのだが、キィの弟子で養子でもあるキーファも同じ術式を使う。
しかし、慣れたつもりでもやはり驚くな。
キーファは魔素の扱いが上手いから、あまりに自然に魔素で囲まれてしまう。
「一応事務室の書類も私の方で確認しましたが、事務書類ばかりで、証拠になりそうなものはありませんでした。劇団の寮の部屋にも何もなかったそうです。」
「ま、身を隠すためにいたんだし、そうだろな。」
キーファの報告にキィが頷く。
たしかに大人しくしるのが目的だったなら、犯罪の痕跡はないだろうな。ん?いや…。
「じゃあ、あの箱はどうやって用意したんだ?」
「は?」
「箱、ですか?」
俺の突然のつぶやきにキィもキーファも戸惑っている。
いかん。思ったことをそのままつぶやいてしまった。ハルカのクセが移ったかな。
「ああ。悪い。いや、あの転移局に送られてきた箱、あれは例の技術者が作ったわけだが、工房はその頃はもうなかったわけだし、作る場所や材料を用意したのはやつらだろう?なら、箱はどこから持って来たのか、と思って。箱には印もなかったしな。」
ルシェモモで箱は重要なものだ。
何せ、作られた作品を無事に相手に届けなければならないから、日常で使う薄い板切れを繋ぎ合わせた普及品と、作品用の発注品は別物として扱われる。
「あ。そうだな。式を刻める程の厚みがある箱なら、普及品じゃなく発注品だろうって思ったのに、印もなくって、結局そっからは情報が出ないまんまだったもんなあ。」
ハルカは普通の箱だと思っていたが、キィのいうようにあの箱は俺にも発注品に見えた。
だから、丈夫な発注品の箱を見慣れている転移局の面々は、最初は箱に注意を払わなかったんだろうと思ったくらいだ。
しかし、それだけちゃんとした作りの箱なら、作品の保護に最後まで保障と責任を持つため、作った工房の印がつくものだ。
商会などで長く使われるものには、その商会のマークと箱を作った工房の印が並ぶ。
つまり、立派な作りの箱で無印というのがおかしいわけだ。
だが、あれにはなかった。削られた後すらだ。
「印がない、なら、劇場の備品や小道具として発注していたかもしれませんね。」
キーファの言うように依頼してる可能性がある。
移動のために使われないなら、責任も伴わないし、そういった注文も可能だろう。
もし、その発注書が出てきて、その商品と事件の箱が材質、大きさがぴったり合えば。
俺の考えを読み取ったキィとキーファが頷く。
支配人には申し訳ないが、もう一度お邪魔しよう。
上手く残ってくれてるといいが。




