20(クルビス視点)
大まかに追跡した隊の様子を聞くと、ケガもなく、ただ、走りまわって転移を繰り返したため疲労が激しいとのことだった。
これ以上の報告がないということは大事はなかったということだ。
取りあえず、シードからの報告は後回しにして、休息と魔素の補給を最優先で行うよう指示する。
捕まえた男はリードが引き継いで見張っているらしいから、何かあればすぐに知らせが来るだろう。
そして俺が牢に戻ると、キィがこちらを見て頷いていた。
俺が言わなくても最後の1つが捕まったというのはわかったようだ。
そこからさらにいくつか質問したが、結局カイザー局長の話を聞いただけで、箱を送り付けた理由にハルカの名前は1度も出てこなかった。
聞きたいことは聞けたので、後は正式な調書まで牢に入れて見張っておく。
「さて、シードに会いに行くか。まさか街中走るなんてなあ。」
「ああ。シードでないと逃げられたかもな。ずいぶん疲れてるようだったから、まず休むように伝言した。」
今いる詰め所に転移陣はないため、劇場前の大きめの詰め所に移動する。
途中、俺の聞いた話をキィにも話し、キーファに任せた劇場のことも話す。
「ん~。良い方に話が広まってるな~。劇場の周りが落ち着かねえのに、にぎやかだ。」
キィが指した先には劇場の関係者から事情を聞いたのか、あちこちに固まって話し込んでる住民の姿があった。
しかし、その顔は明るく、悪い話をしているようには見えない。
耳に拾った声の中にも劇場がつぶれるといった話はなかった。
キーファが上手くやってくれたようだ。
「あ。クルビス隊長にキィ隊長よ。」
「おお。やっぱ迫力あるよなあ。」
俺たちが通ると住民の興味がこちらに向く。
その視線に悪い感情はなかった。
住民たちは今度のことを悪いようには受け取っていないようだ。
これなら、劇場の立て直しも上手くいくだろう。
「そういや、今度、クルビス隊長とハルカさまの話が劇になるんだろう?」
何?
俺とハルカの劇?
思わず足を止めて問いただしたくなるが、そういうわけにもいかない。
隣ではキィが肩を震わせていた。やはり聞こえていたか。
いったい、何がどうして俺とハルカのことが劇になるんだ。
というか、どういった劇なんだ。気になるな。