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「ええ。触られそうになって振り払ったそうなので、本当に一瞬だと思いますが、接触はしたようです。付添いのルイさんによると、カバズさんはかなり気持ち悪がってたそうですから。」
うん。まあ、自分をだまそうとした奴が馴れ馴れしく触ってきたら、確かに気持ち悪い。
で、振り払う時にちょっとだけでも触られたと。それも気持ち悪いなあ。
「じゃあ、その時だろうね。もちろん、転移局に行く途中って可能性もあるけど、見知らぬ相手に触られたら、そのことをキャサリンちゃんや仲良しの付添いの子に話してると思うんだよね。」
それもそうか。
そんな変なことがあったら、少なくとも身近なひとには話してるよね。
ん?じゃあ、その一瞬の接触で術式をかけたってこと?
そんなこと出来るの?
「あの古い術式はね。布をかけるみたいに上から乗せるだけなんだよ。だから、ちょっとでも触ればいいわけ。魔素の扱いの上手い子なら、触らなくても近づくだけでかけられるんだよね。その分効果も薄いけど。」
出来るんだ…。
フェラリーデさん達も絶句してる。
私の習った知識だと、術式を生き物にかける場合は、相手とのしっかりとした接触と魔素の量と質を合わせる微調整が重要なはず。
でも、いまのメルバさんの話だと、そんなの必要ないらしい。
「あくまで自己治癒の手助けのための術式だからね。個体に直接影響するものじゃないから、内側から干渉する必要がないんだよ。だから、魔素の微調整もあまりいらないし、術さえ組めればパっとかぶせてお終いなんだよね。いや~、僕もすっかり忘れてたよ~。この術式、もう1000年は使ってないから~。」
お医者さんモードから通常モードに戻るメルバさん。
どうやら術式に関する話はこれで終わりみたいだ。
それにしても、1000年前の話なら普通忘れますよ。どうして思い出せるんだか。
これ、メルバさんじゃなきゃ、わからなかったんだろうなあ。
長老さん達に聞いても時間かかっただろうし、そもそも、そういう術式があるっていう答えにたどり着けていなかっただろう。
うん。偶然でもメルバさんがこの事件に関わってくれて良かった。ホント、そう思う。
「そうなのですか…。では、その時にかけられた可能性が高いとして、今の術式のように誰が術をかけたか証明できるのでしょうか?」
ショックから立ち直ったフェラリーデさんがメルバさんに質問する。
いつの間にか室内はまた緊迫した空気になっていた。