16(クルビス視点)
別の詰め所にいるキィに連絡を取ろうとしたら、キィ自身がやってきた。
もう南との交渉は終わったのか?早いな。
「おう。こっちは港止められたぜ。つっても昼までだけどな。」
「早かったな。もっとかかると思っていた。こっちはルシェリード様に報告した所だ。劇場のことは表ざたにしないことを許可してもらった。ついでに、俺の裁量でやっていいと言われた。」
「おお。さっすが、ルシェリード様。それなら、うるさい連中に邪魔されなくてすむな。」
俺の話を聞いたキィはにやりと笑う。
うるさい連中とは、スタグノ族の古参の老体たちのことだろう。
芸術を好む種族だが、同じくらい名声や世間体と言ったものを気にするのが特徴でもある。
前の事件を受けて、あちこちで劇場を取り壊そうと動いたのも古参のスタグノ族が中心だったらしいしな。
北はスタグノ族が多いせいで、こういう時の根回しに酷く気を遣う。
だが、今回祖父の意向で俺に任された以上、その根回しもかなり楽になるだろう。
祖父はああいった以上、各一族の長には通達しておいてくれる。
一劇場のことで中央から文句は出ないだろうし、何より金がかからないとなれば、各長たちも何も言うまい。
それに、古参のスタグノ族は祖父というかドラゴン全体を畏れ敬っているからな。
祖父から任せられた俺の采配にケチをつけたりはしないはずだ。
「ああ。そうだ。やっぱ南も結構被害があったらしくて、詐欺師たちの調書を取りたいってさ。先に港の裏の連中の調書があるから、後の方でいいらしいけどな。」
だろうな。予想の範囲内だ。
ビドーの話では南の元締めとも連絡を取っていたようだったから、調書の要請はあるだろうと確信があったので、先に祖父には報告しておいた。
でないと、星祭となると父と祖父で酒を飲むからな。
数日は、連絡がつかなくなるから、報告が遅れて困ったことになる。
「そうか。予想はしていたが、調書の要請がきたか。調書は4つの地区で順に取れるよう、主犯の3つと例の技術者たちを1つずつバラバラに、それ以外は数個ずつ各地区に送るつもりなんだが、どう思う?」
「ああ。そっか。いいんじゃねえ?どうせ詐欺師ならばらけさせて見張らないといけないし、各地区で少ない数を見張ってもらった方が警備も楽だよな。よく思い付いたなあ。」
俺が言った考えにキィが納得したように頷く。
その目に賞賛を見て取り、訂正を入れる。
「いや、祖父の考えなんだ。正直、前例がなくて、対処に困ってしまって。相談した。」
「ははっ。いいじゃねえか。ありがたく助言に従おうぜ。どの地区も被害がある程度あるから、調書を待たせるわけにゃあいかないし、キーファの胃痛が1つ減ったわ。」
俺が素直に白状すると、キィは笑って頷いてくれた。
だが、キーファの胃痛は大半はお前のせいだろう。書類仕事くらい期日までにやってやれ。