12(クルビス視点)
*******************
「成る程。それで、あちこちに転移してたわけだ。」
俺が劇場の近くの詰め所の1つで西に連絡を取ると、西の戦士部隊隊長のザドさんがすぐに対応に出てくれた。
シードが転移を繰り返して追いかける様はかなりウワサになってるらしく、後の処理が大変そうだ。
「はい。こんな方法があるとは考えつきませんでした。一時的に街の外への転移陣は封鎖出来ましたが、海から逃げられる可能性があるので、今、キィ隊長が南と交渉中です。」
「そうか。海に…。それなら、こちらも山に入って逃げられないよう、見張りと巡回を強化しておく。たまに塀をよじ登るやつがいるからな。西の転移局への対応は任せてくれ。」
「…ありがとうございます。助かります。」
俺の説明にすぐさま協力的な返答が返ってくる。
顔には出さないように礼を言ったが、正直驚いた。
西は北と同じく技術者の工房が地区の中心だ。
しかも、シーリード族の中で2大勢力のトカゲの一族が北を、ヘビの一族が西を収めているため、ますます張り合う傾向が強い。
そのため、守備隊でも連携を取るのが難しく、協力を要請しても返事がこないこともあるくらいだ。
俺の父とシードの父上の代で少し緩和されたが、それでも好意的というほどではなかった。
「何。水の浄化でも、雨季の地下でも世話になった。それに奴を追ってるのはこちらも同じだ。これくらいはな。」
ああ。そうか。
多くの事件が起こるが、ここ最近は、北と西は関わることが多かったな。
それだけ大きな事件が続いたことは憂慮すべきことだが、おかげで他の地区との連携が進んだのは良いことだ。
仕方ないと諦めるのではなく、前に進まなくてはな。
「ありがとうございます。捕まえたらまたご連絡します。」
「ああ。こちらも詐欺被害の調書を取りたいから、その辺もまた話合おう。では。」
「はい。また。」
通信を切ってゆっくりと息を吐く。
こんなに穏やかに話が終わったのは初めてじゃないか?
こんな勝手に他地区を巻き込んだ捕り物。
いつもなら嫌味の1つや2つは来るものだが。
こうなると、東の対応をしていたキーファが気になるな。
東はキーファへの偏見も少ないし、ドラゴンの隊長がいることもあって、隊内が安定してるから大丈夫だとは思うが。
俺のいた詰め所を出てキーファのいる詰め所へ向かうと、ちょうど通信を終えたところだった。
どうやら上手くいったらしい。
「ああ。クルビス隊長。今通信を終えました。東地区でもかなり巧妙に逃げ回っていたようで、すんなり信じてもらえました。転移局への対応もして下さるそうです。後は、捕まえたら調書を取らせて欲しいと要請がありましたが、返事は後日で良いとのことでした。」
「そうか。こちらも上手くいった。西も調書を取りたいそうだが、当然、南からも要請があるだろうな。」
「そうでしょうね。となると、順番を考えなくてはいけませんね。」
キーファが嫌そうに顔をしかめる。
そうだな。どの地区も被害が出てるから、調書には時間がかかるだろうし、その順番も悩ましいところだ。
地区ごとに特色があるからか、技術狙いの泥棒であっても地区をまたいだ犯罪というのはそうあるものではなく、こういう時の順番や取りきめは特に決まっていない。
もしかしたら、4地区をまたいだ犯罪なんて、今回が初めてかもしれないな。
決まってないということは、他の地区から文句がこない理由で、調書のために詐欺師たちを移動させる順番を「北地区の守備隊」が考えなければいけないということだ。
これはこれで頭が痛い問題だ。仕事が増えたな。