11(クルビス視点)
支配人との話が終わると、一旦、部屋の外に出てキーファの報告を受けることにする。
すると、驚くことに先に逃げ出したやつはまだ捕まえられないらしい。
シードから逃げ切るなんて、どんな身体能力だ?それともどこかにぎやかな市にでも逃げ込んだか。
そのシードから連絡を受けたらしいキーファが固い表情で報告する。
「近場の転移局から転移を繰り返してるようです。事情を話して聞き出した転移先に連絡を取ったら、別の転移局に移動してるといった様子で。姿は見失っていないようですが、移動は地区を問わずしているようです。」
転移陣の梯子だと?
思わぬ逃げわざだ。
同一の者の連続使用は禁止されてるから、転移局を移動してるわけか。
こうなると、尾行にはすでに気付かれていたか、警戒されたか。
あの極限の状況でよく思い付いたな。
それとも前にも同じ手を使ったことがあるのか、誰かに教えてもらったのか。
一度、転移陣の使用記録について調べた方がいいかもしれない。
それはそれとして、やっかいなことになった。
「このままじゃ、いずれ逃げられるな。」
「ああ。北だけなら数にまかせて転移局を見張ることもできるが、地区を問わずとなると…。」
「各地区から問い合わせが来てるそうです。一応、急ぎで街の外と繋ぐ転移陣や門は一時的に封鎖していますが…。それも今日の昼までが限界です。」
封鎖まで出来たのか。この短い時間でよくそこまで。さすがキーファ。
これなら、しばらく街中には留めておけるだろう。
この間のクレイの逮捕から、街の外と繋ぐ転移陣の使用にはことさら監視が厳しくなった。
そのため、有事の際には一時停止も認められるようになったんだが、それが役にたったな。
「ありがとう。いい判断だ。」
「さっすがキーファ。それなら、街の…んん?あー。それだと、海に出られたらマズイな。海から逃げたやつが昔いたはずだ。船の確認や停止は、してないよな?てか、出来ないよな。」
俺が礼を言うと、キィがキーファを褒めようとして問題に気付く。
街の船の出入りは南地区の隊長の権限だ。
たとえ思いついたとしても、北の副隊長の立場では要請も難しいだろう。
キーファは驚いたように目を見開いた後、首を横に振った。
「はい。海は思い付きませんでした。申し訳ありません。」
「いいや。北にいたら、港は管轄外だからな。しょうがねえよ。」
「ああ。気にするな。キーファ。俺も気づかなかった。良く知ってたなキィ。」
「昔、南の隊長から聞いたことあったんだよ。南では結構あるらしいぜ。早速、南と話してみるか。」
驚く情報をさらりと口に出したキィは、あちこちに術士部隊が貸し出されることもあって、他の地区で起きた事件にも詳しい。
キィがいなければ、まんまと海から逃げられていたかもしれない。
「なら、俺は他の地区に説明をしよう。東はキーファに頼む。あそこは被害があって間がないから、聞いてもらえるだろう。」
「はい。」
後は時間との勝負だ。
上手くいけばいいが。