10(クルビス視点)
大体の事情を話し終えると、後日に正式な謝罪を送ることを誓う。
すると、ベリシー支配人は俺たちに「正式な謝罪は必要ない。」と答えた。
「今朝の騒動の謝罪は最初に頂きました。それに、本来、こういった事態を防ぐために組合から私が選ばれたのです。むしろ、無法者を引きこんでしまって、私の方が皆さまに謝罪しなくてはならない立場にあります。」
「いいえ。やつらは巧妙です。表立って罪を犯したわけではありませんし、記録もありません。見分けるのは至難の業でしょう。あなたの責任ではありません。」
「そうです。どの地区の守備隊も捕まえきれなかった連中です。責任がというなら我ら守備隊にこそあります。」
組合に選ばれただけあってずいぶんと責任感が強いようだ。
魔素でも後悔の感情がヒシヒシと伝わってくる。
だが、俺もキィもそれに反論する。
ここまでの被害が出るまで手を打てなかったのは守備隊の責任だ。
ここに潜り込むのだって、前々から下準備して伝手を作っておいたんだろう。
ベリシー支配人はそれに巻き込まれただけだとも言える。
「ありがとうございます。ですが、やはり、正式な謝罪は必要ありません。自分の責任はやはり感じますし、何より正式な謝罪となると、公式の記録に残ってしまいます。それでは、当劇場の存続はますます危うくなる。」
ああ。そうか。
前の捕り物で、この劇場は裏の温床になってるのではと取り潰すことになってたんだったな。
それを娯楽の少ない北地区での数少ない劇場としての功績と、周囲の住民の嘆願もあって存続することになったわけだ。
それがこの短い期間にまた捕り物だ。
今度こそこの劇場の立場も危ないだろう。
正式な謝罪は中央からの援助金も出るから普通は断らないが、今回の場合は断るのが劇場側としては正しい判断だと俺も感じる。
キィと目を合わせ、同意を得る。
いらないと言うなら無理に渡す必要もない。
その方が相手に理があって、さらにこちらに金がかからないとなれば中央の許可は得やすいだろう。
なら、ここで独断で謝罪を無かったことにしても問題はない。
「そうですか。では正式の謝罪は無しということでよろしいですか?」
「はい。それでお願いいたします。」
ホッとしたように答える支配人。
彼にとってはこの瞬間が一番緊張したかもしれないな。
さて、このことも先に祖父と父に話しておかないとな。
いや、母もか。入れないと拗ねるからな。