9(クルビス視点)
ベリシー支配人も肩の力が抜けたようで、先程より落ち着いて見える。
顔色も先程より良いし、これなら話が出来そうだ。
「では、事情をご説明させて頂きます。」
「お願いいたします。」
まずは俺から捕まえた詐欺師の一味のことを説明する。
前々から追っていた連中で、あちこちの地区で立場の弱い者に付け込んで暴利をむさぼっていたことを説明する。
一例として、カバズという技術者があった被害を名前や詳しい職種は伏せて説明すると、支配人は顔をしかめて「そういう話をお客様から聞いたことがあります…。」と頷いていた。
そういえば、この支配人は東地区出身の俳優だったな。
たしか、北に来る前は東にいたはずだから、客やその知り合いに被害者がいたのかもしれない。
だが、まだ納得はいかないようだ。
たしかに、表に情報が出れば劇場がつぶれかねないこの騒ぎの理由としては、詐欺師の一味が潜り込んだだけでは弱い。
普通なら秘密裏に支配人に話を通して、外に出たところを捕まえているところだ。
だが、俺が転移局に届けられた箱の話をし、それを送ったのが詐欺師たちということと、さらに箱の詳しい効果をキィが話すと支配人の顔が目を見開いたまま固まった。
唯の詐欺師が用意するにしては凶悪過ぎるからな。
触ったら意識不明になるなんて、どんな呪いだ。
そしてそれを重く見た中央守備隊本隊から許可が出て、今回の捕り物となったわけだ。
「この事態を中央も重く見ています。一番危険な術式をどこで手に入れたのか、何故あのような危険な箱を作ろうとしたのか一刻も早く確かめる必要があったのです。」
「それで、先程の捕り物に…。」
「ええ。それに、一味は自分たちの仕事がバレそうになるとすぐに別の場所に移ろうとするので、余計に時間を空けるわけにはいきませんでした。」
俺とキィの説明にベリシー支配人が頷く。
顔色がまた悪くなっているが、納得がいった様子だ。
「そうでしたか…。あの、当劇場にはその、そういう危険物はありそうでしょうか?」
「一応捜索させていますが、ここには無いでしょう。一番危険なものはこちらで回収した1つしか作れなかったそうですし、やつらはこれまで危険物を扱ってはいなかったようですので。」
「ああ。そうですか。良かった。」
ホッとした表情で身体の力を抜く支配人。
気持ちはわかる。劇場は大道具小道具がたくさんあるから、隠そうと思えば隠し放題だからな。
だが、用意周到な相手だから、たとえ危険物を他にも持っていたとしても自分の傍には置かないだろう。
隠してある金は見つかるかもしれないが、具体的な証拠はここでは見つからないだろうな。