7(クルビス視点)
表が開くと、裏はひと段落つく。
踏む混むタイミングを見ていると、奥で罵り合うような声が聞こえた。
少しだけ魔素を耳に集め、内容を聞き取る。
どうやら誰かを捜してるようだ。
『…だろうが!どこにも姿がない!』
『だから、ちょっと出てるだけだって!いつもみたいにすぐ戻るって!』
この会話。さっきの男が中心のやつだとすると、この2つの声は他の面子か。
表が開いてる今、裏方に残っている顔などそう数は無い。
技術者たちは裏口近くに集まっている。
そのうちいくつかが辺りを伺いながら外に出ようとしている。
このまま待っていても好転しそうにないな。
キィと頷き、中に突入する。
「え。隊士さん?」
「ぎゃっ。」
「うわっ。クルビス隊長。」
「うげっ。っくそ!」
「ん?キィ隊長じゃねえか。」
いきなり現れた俺たちに戸惑う声と悲鳴が次々に上がる。
逃げようとした連中は片っ端から捕まえていく。
奥の怒鳴り声が止まった。
逃がす気はない。足の速いのが奥に急ぐ。
「くそっ!」
「待ってくれよ!」
目標は事務室の辺りにいたようだ。さっきの言い争ってたのと同じ声が聞こえる。
どうやら、目当ての2つで当りみたいだな。
「!なんで、ここが開くはずなのにっ。がっ。」
「げほっ。いてえよっ。離せっ。」
俺とキィが事務室に到着した時には、明るい青に黄色い線の入った男が棚の傍で、頭に布を巻きつけている暗い赤の男が事務室の床に押さえつけられている。
あの棚は以前隠し扉になっていたやつだな。塞がれたのを知らなかったのか。
「それを知ってるってことは、詐欺師の一味で間違いなさそうだなあ。」
「ああ。」
キィと俺の姿を見て、捕まった2つは目を見開いた後顔をゆがめる。
青い男は悔しそうで、赤い男は泣きそうだ。
「やっぱ見捨てられたんじゃねえかっ!」
「ふえっ。そんな。」
さっきの男が中心になってたやつだとすると、この2つは自分たちで言うように見捨てられたんだろう。
詐欺は元々灰色の男が行っていたところに、この2つが途中から加わったらしい。
そこから裏の詐欺だけじゃなく裏取引にも手を出したりしてたみたいだが、繋がりは薄かったようだ。
少なくとも、灰色の男はさっさと自分だけ逃げだした。
捕まったのに罵り続ける青い男とめそめそ泣く赤い男。
こんな連中にハルカは危険な目にあわされたのか?
「あ~。取りあえず、支配人に事の次第を伝えないとな。ここまで呼んできてもらうか。劇は普通に始まってるみたいだし話は出来るだろ。…キーファには悪いが、呼び戻すか。」
ハルカと離れて機嫌の悪い俺を察して、キィが次の段取りを決めていく。
たしかに、騒ぎはとっくに支配人に知れているだろう。
前のことがあるから、ある程度事情は分かってもらえるだろうが、独断での捕り物だ。
この後の劇場の取り扱いに各方面への謝罪、それに問題の詐欺師本人の追跡、やることは山ほどある。
「ふう。そうだな。キーファへの伝言と支配人への伝言を頼む。」
軽く息を吐いて、冷静になる。
近くの隊士に伝言を頼み、キーファと支配人を呼んできてもらう。
早く終わらせて、ハルカを迎えに行こう。
そうすれば、このイラつきも収まるだろう。