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「あ、そうそう。カバズさんを騙そうとしたひとが謝りに来たっていってましたねぇ。えっと、高価な材料を押し付けられそうになって、叩き返してやったって言ってましたぁ。黒の染料だって。」
キャサリンさんが思い出したように口を開く。
驚きの内容にギョッとするけど、フェラリーデさん達は確かめるように頷くだけ。もう調べはついてるみたいだ。
黒の染料ねえ。口止め料かなあ。
黒の染料は高いって式の前にさんざん聞いたし、染付職人のカバズさんには丁度いいと思ったんだろうなあ。
でも、叩き返したんだ。カバズさん、かっこいい。
かっこいいけど、それで恨みを買った、とか?
「そのようですね。付添いのトカゲの一族のルイさんも同じ話をしてくれました。雨季の直前に、例の取引先から謝罪があったそうです。口止め料をカバズさんに押し付けようとしたそうですが、カバズさんは怒って付き返したと聞いています。」
ルイさんも話を聞いてたんだ。もしかしたらその場にいたのかも。
フェラリーデさんが口止め料ってはっきり言ってるってことは、ルイさんかカバズさん自身がそう思ったってことだ。
腹がたったんだろうなあ。
難癖つけられて、もうちょっとで自分の商品が安く買いたたかれる所だったっていうのに、旗色が悪いと急にペコペコしだすなんて、バカにしてると思っただろう。
「その際、相手はカバズさんを宥めようと肩や腕に触ったそうで、それもカバズさんが振り払ったらしいのですが、多少の接触はあったようです。その程度で術式をかけられるとは思えませんが、カバズさんは制作中は転移局に行く以外は工房に籠ってしまうそうで、そもそも他と接触する機会があまりないそうです。ルイさんも他には心当たりはないと言っていました。」
肩や腕って、二の腕のあたりも触ったってことかな?
うわあ。ますます怪しい。
でも、術式をかけるのって結構しっかり触らないと出来ないよね?
魔素の調整も相手に合せないといけないし、嫌がる相手にさっとかけるのは難しいだろう。
仕事中は転移局くらいにしか行かないってことは、その行き来に腕をつかまれたりしたんだろうか。
フェラリーデさんは混雑する転移局の中で接触があったんじゃないかって思ってたみたいだけど、それもさっきカイザーさん達に確認してありえないことがわかっている。
これじゃあ、誰がどうやってカバズさんに術式をかけたかわからないなあ。
本人の目が覚めるまで待つしかないのかな。
「先程のお話で、転移局での接触もなかったようですし、詳しいことはカバズさんが目覚めるのを待って、それからですね。」
「ん~?ちょっと待ってよ?触ったって、手の平がしっかり触ったの?一瞬でも?」
話をまとめようとしたフェラリーデさんにメルバさんが待ったをかける。
もしかして、術式をかける方法に心当たりがあるのかな?




