6(クルビス視点)
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朝のうちだと言うのに厳しい日差しの中、隊士たちは息をひそめて裏道を通っていく。
住民を脅かさないよう、小分けに道を分けて目的の劇場を目指す。
例の劇場は大通りの真ん中あたりにあり、朝から出入りが多い。
ここは夜の公演をしないから、午前と午後に2回ずつ、計4回の公演だ。
「急げ!間に合わねえぞ!」
劇場の裏口、大きく開け放たれた資材置き場では技術者たちが大きな板を持って右往左往している。
どうやら劇に使われるものに何か問題が起こったようだ。
公演まで時間が迫っているから、かなり焦っているらしい。
板や何かの容器を抱えた者たちが出たり入ったりしている。
怒鳴ってるのが、キィの言ってた熟練の技術者だな。
周りに目を配りながらも優雅な曲線を描くスロープのような板を瞬く間に仕上げている。
他の技術者たちがあっという間に仕上げていくのは階段の一部のようだが、どうやら舞台のセットが壊れたようだ。
1日に複数回使用するなら破損もあるだろうが、移動する数と流れがどうにも不自然だ。
材料や出来上がった道具を運び込むにしては入口周辺に数が偏っている。
幾つか外を気にしているようだし、これはキィの予想が当ったかもな。
この分だと表が開く頃には片付けを装って逃げかねない。
さて、どうするか。
「あ。事務長。どこへ行かれるんですか?」
技術者の大きな声が響く。
事務長と呼ばれた男はくすんだ青と灰色のまだら模様の男で、大人しい地味な男だった。
技術者に「少し事務用品を買い付けに。」と答える姿は普通の地味な裏方の顔だ。
だが、目が外を見る時にぎらついたのは見逃さなかった。
本当に事務方か?
少し離れた場所にいるキィと視線で頷き、その事務長と呼ばれた男に注意を向ける。
ビドーの話によると、例の詐欺師は3つで組んでいて、中心になってる男は灰色の体色をしていたはずだ。
他の2つも暗めの赤に明るめの青とそう変わった色は持っていない。
聞いてる特徴と比較するなら、あの事務長という男は中心になってるやつに近い体色だが、青とまだらになっている。
だが、あの色、どうにも艶のないくすんだ色合いが気になる。
『全身に塗るって、こっちのお化粧は変わってますね。』
不意に愛しい伴侶の言葉が浮かぶ。
以前、イグアナの少女が訪ねてきた際、身体に塗りたくられた黒の染料に引いていた。
その時、ハルカの故郷では肌に塗るのは基本的に顔だけで、肌の調子を整える栄養は全身にやることもあると説明されたな。
俺は逆にこちらでは艶のある鱗や形が美しさの基準とされるから、鱗の隠れるようなことはしないのが普通だと答えたんだったな。
例外は役者くらいだと。
そうだ。劇で役柄に合わせて色を変えることがある。
艶のない鱗…。
あれは偽装か!
全てを隠さないから却って生まれつきの色に見えるわけだ。
上手く化けたな。
俺はすぐさま手の動きだけでシードに指示を出す。
壁に張り付いていたシードは何人かの部下と共に、事務長と呼ばれた男をつけていった。
当ってくれればいいがな。
さて、表はそろそろ開いたはずだ。こちらにまで、にぎやかな声が聞こえてくる。