5(クルビス視点)
結局、戻ったシードもアニスが行くのに賛成したことで、キーファが折れた。
アニスとキーファの2つなら、大抵のことがあっても対応できるだろう。
「では、リリィ。アニスに説明を。出かける支度もあるでしょうから。」
リードがリリィに伝言を頼むと、リリィはすぐさま部屋を出ていく。
出来るだけめかし込んで欲しいものだ。
若い隊士たちのデートだと思われた方がいい。
この2つの名前が挙がったのも、隊の中でもかなり若手に入るからでもあるしな。
若いから相手が油断してくれるのも狙いのうちだ。
2つとも隊士見習いになった期間を含めると、同世代よりかなり経験は多いのだが、それは案外と知られてない。
だから、未だにキーファに特級の資格だけで副隊長になっただとか、キィの贔屓だとか言う勘違いもいる。
そもそも特級の資格だけでも純粋に実力がなければ得られないのだが、守備隊は様々な事件への経験がものを言うため、若いうちは下に見られがちだ。
キーファ自身は気にしてないようだが、北の副隊長の1つが舐められっぱなしというわけにもいかない。
ここらで、目立った手がらをあげてもらわないとな。
「んじゃ、表はアニスとキーファで行ってもらって、その外は事前の警備でってことで。」
「ああ。裏は窓と入口、それから資材置き場も増やそう。」
「そうですね。では、治療部隊は1つづつ待機で。」
一通り方針が決まると後は早い。
これが北の守備隊の強みだな。
他は各隊の対立が激しくて中々連携が取れないと聞くから、これはいつもありがたいと思ってる。
キィとリードが俺を立ててくれるからだろう。
戦士部隊を中心に各隊にも花を持たせる形式は、深緑の森の一族の長が所属されていた頃からの決まりごとだ。
その後、長く俺の父が戦士部隊の隊長を務めたのも影響が大きいだろう。
ドラゴンがいれば自然と中心にまとまる。
だからこそ、母と離れることになっても、父は北の結束が固まるまではどんな勧誘が来ても動かなかったと聞いている。
その恩恵で、今の俺たちは広大な北地区の守備をこなすことが出来ている。
それに胡坐をかく気はないが、今のこの状況が当たり前であるように努力していきたい。
「それにしても、ずいぶん良い席だなあ。」
「箱部屋の一等ですか。期限も長いですし、かなり高額ですね。」
ほぼ決まった所で、キィが例のチケットをリードに渡しながらしみじみとつぶやく。
チケットを渡されたリードも驚いている。
まあ、ハルカにそれだけの価値があると思ってるのを示したいんだろう。
局員に青の一族がいたりすると、こういう方面は大げさになるからな。
「支配人とか出迎えに来そうだよな。」
「…そこまで目立つのは困ります。」
シードの感想に、キーファが顔をしかめる。
キーファは青の一族には珍しく派手なことを好まないからな。
しかし、このチケットを使うなら、挨拶は免れないんじゃないか?
元々、ハルカへの顔つなぎ用のチケットだしな。
「いや。いっそ、その方がいいんじゃね?表に注目が集まれば、裏は油断するだろうし。」
「…そうだな。目が集まれば、数もあつまるし、派手に動けなくなるだろう。」
シードの言葉に俺も賛成する。表を使えなくするのが狙いだからな。
キーファもそう思ったのか、頷いて「わかりました。」と覚悟を決めたようだった。