4(クルビス視点)
「なら、客のふりして表に入るってのはどうです?あの劇場って、例のチケットの指定先でしたよね?」
シードが意外な提案をする。
例のチケット?ああ、ハルカに来てたやつか。
「ほら、リリィも見ただろ?ハルカさんに送られてきたやつ。転移局の勧誘でおすすめの情報やらチケットやらたくさん。」
シードの言葉に首を傾げていたリリィがそういえばとつぶやく。
大量に来た勧誘の地区の情報やチケットのことはリリィも知っていたようだ。
「でも、チケットは売ったのでしょう?」
「それがさ、この劇場のだけ非売品扱いだったんだよ。」
「ええ!?」
売る事まで知っていたのか。
アニスから換金に行くことは聞いていたのかもな。
外出の際は隊長か副隊長に行き先は告げることになっているから。
だが、売れなかったチケットのことは知らなかったらしい。行き先はともかく、アニスも代理した詳しい内容までは話さなかったんだろう。
まあ、リリィが驚くのもわかる。非売品指定など、仕事の転勤の勧誘くらいで普通はしない。
それこそ、祖父のような重鎮相手に是が非でもつなぎを取りたい時に使うくらいだ。
それだけ、彼女の存在は重要視されてるわけだが。
ハルカの警備を増やすか?術に長けたやつを加えてもいいかもしれない。
しかし、使い道のなかったチケットに思わぬ利用方法があったものだ。
ハルカはあのチケットを嫌がっていたし、あれから特に送り主の変わった動きもない。今後使うこともないだろうから、始末するには丁度いいだろう。
「そういやあ、大量に贈られてきてたなあ。情報誌と同じくらいあったもんなあ。」
「あの中にこの劇場のチケットもあったんですね。まさか非売品まであったとは…。」
キィがしみじみと言い、リードが呆れたようにつぶやく。
おすすめ情報は冊子にしてこの会議室に置いてあるが、チケットは束でしか見せていないからこの反応なんだろう。
あの時はあまりにあからさまな勧誘に、さすがに2つとも呆れていたな。
俺がハルカを離さないのは少し調べればわかることなんだが。
「北や東の劇場のはほとんどありましたからね。クルビス隊長、ちょっと上の通信で、ハルカさんにお願いして使用の許可をもらいたいんですが、よろしいでしょうか?」
「…ああ、頼む。チケットは、多分、一番入り口側の引き出しのどこかだったと思う。一応、ハルカに確認してくれ。部屋には入ってくれて構わない。」
俺が行きたいが、俺の部屋までシードの足の方が早い。
それに、ハルカと話したら、しばらく通信から離れられそうにない。
そんなところを母に聞かれたら、何を言われるか。
部屋にチケットを取りに行くのも無理だ。ハルカの香りで動けなくなるのが目に見えている。
仕方なく、時間がないからと、渋々私室に入る許可も合わせて出すと、俺の心の声が聞こえたらしいシードが苦笑しながら退席する。
そして、その案を中心に表の警備にあたることで話を進めることになった。確かに、客として中に入るならおかしなこともない。
「誰が行くんだ?」
「2つ用の席だったから、行くなら2つだな。」
キィの疑問に俺が先に数を答える。
元々俺とハルカを招待するためのチケットだ。行くなら2つでないと怪しまれるだろう。
「なら、アニスとキーファで言っては?年も近いですし、アニスは式でハルカさんの付添いをしてます。譲ってもらったと言っても通るでしょう。」
「なっ。げほっ。何故私とアニスさんが。」
「良い案だな。」
「そうだなあ。年も近いし。お前が一緒に行くのが一番自然だな。」
リードの提案に当のキーファはむせたが、俺とキィは賛成する。
半分はリードが言ったように理由として問題ないからだが、半分は少しも進展しない2つへのテコ入れだ。
2つともお互いを意識してるのは丸わかりなのに、この50年、まったく進展があるように見えない。
夜明け前に仲良く走ってるのは続けてるのに、休みの日などは別々なようで、俺もそうだがキィもリードも気にしている。
「いえ。あの。私は後方支援で。」
往生際の悪い。
キーファが自己肯定が低いのは知ってるが、アニスがそれを気にしてないこともお互い知ってるはずだ。
第一、他のやつがアニスとデートに行ってもいいのか?
アニスに声をかけようとした奴らを裏で徹底的に排除してるのは知ってるんだぞ。
こうなったら仕方ない。
発破をかけるか。
「じゃあ、他のやつと組ませよう。」
「ん~。アニスとだと…。」
「いえ。あの。アニスさんが行くのは決定なんですかっ?」
そうだ。その場にいたキーファ以外が頷く。
キーファは固まってるが、どうせ、お前が行くことになるんだ。面倒だから、さっさと「はい」と言ってしまえ。