3(クルビス視点)
前回で侵入経路はほぼ把握している。
キィの指摘した通り、隠し通路が用意されていたが、そちらは出口の拠点ごとつぶしてある。
劇場は森から中央地区に続く大通りから東に繋がる東大通りに面している。
真ん中の大通りは技術者の建物が占めるため、娯楽施設は東側に多い。これは東地区の影響だ。
花の東と例えられるのは、花の栽培だけでなくフォーリンガの活躍や西から流れてくる温泉の恩恵もあってのことで、東地区は街で最大の歓楽街を持っている。
山手側に危険な工房が立ち並ぶのに対応するように、東の崖側には華やかな宿や劇場などの遊興施設が集まるようになった。
北もその影響を受けており、東側に本屋街などの娯楽に関わる工房が、西側に星街などの技術が突出している工房が立ち並んでいる。
劇場は大通りと裏の小道の2か所に入口を作っている。
今回使うのは裏だ。
表だって向かって混乱に乗じて逃げられても困るし、例の詐欺師たちは、劇場では決して表に出てくることがないからだ。
北西の地域でずいぶんウワサになったから、身をひそめてやり過ごそうとしているようだ。
今までも、同じようなことをやってはバレそうになると他の地区に移るということを繰り返していたようだから、逃げる先が無いのかもしれない。
これはビドーの手柄だな。
各地域の顔役に情報を流していたから、体色も名前も知れ渡っているだろう。
「劇場の代表者はベリシーと言う東地区出身で、組合から派遣された元役者です。どうやら無関係の者を盾に隠れているようですね。いつもいるのは奥の事務所です。ベリシーがうちの一族の医院に歯の治療に来たとき、『ずっと事務所に籠っている』と困惑していたとか。」
リードの情報によると、詐欺師らしく代表も無関係の者を置き、裏で操っているようだ。
代表だけは事件の後で劇場の組合から正式に派遣されたから、表立って入れ替わることが出来なかったんだろうが、それを上手く利用したな。
だが、情報というものは洩れるものだ。
籠っていたのは顔が知られてるからだろうが、華やかな魔素を好む劇場関係者の中では異質だ。
「裏から事務所まで入るのはいいけどよ。劇場の修理で技術者が複数出入りしてるが、知らない顔が混じってるって舞台づくりの祖父さんが言ってたぜ。茶飲み友達なんだ。外と連絡取ってるなら、急いだ方がいいかもな。裏を書かれて表から堂々と出られちゃ困るぜ。」
キィが侵入経路の舞台側を指しながら意外な情報を提供する。
いつも驚かされるが、キィは自分の家族を殺された事件を追って、秘密裏に情報をずっと集めていた。
それはとても地道なもので、弟以外に信用できる者がいなかったために、目立つことのないよう自身で街の警備と称して住民とたわいのないおしゃべりをし、情報を集め、確かめ、精査してきた。
執念としか言いようのないそれは、味方のいない孤独な戦いだ。途方もない道のりだったろう。
だが、その努力が功を奏して、ハルカの証言をきっかけに、ようやくこの間黒幕も含めて犯人を捕まえることが出来た。
ただ、事件が解決した後も、「俺には机にへばり付くのは合わねーわ。」と変わらず外でフラフラしている。
そのしわ寄せは副隊長であるキーファ以下、多くの部下に多大に向かっているが、実のある情報を持って返る隊長を強く諌めるものはいない。
副隊長の就任当初はキーファの胃に穴が開きかけていたがな。
今も鋭い目つきでキィを睨んでいるが、あれはこの間の締切が過ぎた書類のせいだろう。
キーファには悪いが、今回のようなことがあるから俺とリードはキィの自由な行動に歯止めをかけることが出来ない。
もうしばらくは、キィの補佐を頑張ってもらおう。