2(クルビス視点)
転移局に持ち込まれた不審な荷物は、術士崩れが西の工房に潜り込み作ったものだった。
雨季に襲ってきた連中の仲間だったようだが、魔素が合わずにかなり前に1つで抜け出したらしい。
よそ者は目立つため、引きこもっていても近所では有名だったようで、逃げ出した後もすぐに情報は集まり確保できた。
凶悪な物を作るわりに根性はなく、少し脅したらペラペラとしゃべったらしい。
まあ、鮮やかな赤の体色を疎まれて置いて行かれたようだったから、恨みもあったのかもしれない。
話によると、工房の責任者はトカゲの一族の老いた技術者だったが、紹介がないと依頼を受けない頑固者で通っていたそうだ。
その紹介というのが、裏の取引をやってる連中で、密猟者たちとも手を組んでいたようだが、どちらかというと最近耳にするようになった詐欺師の手伝いの方を主にしていたようだった。
「俺の術式は効果の範囲が狭い。魔素の反応をわかりにくくしたりして、中のものを隠すのは得意だ。だから、大きな仕事に関わったことはないけど、ちょっとした仕事はよく受けていた。
大物はあの箱くらいだ。何度も邪魔したトカゲの男に仕返しするためのものらしいが、苦労した。自分の持ってる式を全部使ったんだ。あの箱は意識を失う術式だと聞いて組み込んだんだが、ちゃんと発動したのか知ってるか?」
その術士は魔技師向きなのか、作った箱のことをとても気にしていたとシードが言っていた。
俺はハルカの傍を離れなかったから調書の立ち会いはキィとシードに任せたが、行っていたら相手を殴っていたかもしれない。
あれは気を失うどころじゃなかった。
教えてやる気はないが、生涯目が覚めないままになったかもしれない危険極まりない代物だ。
それをハルカのいる場所に送り込むなんて。
ああ。思い出しただけで、怒りが湧いてくる。
キィが発動しなかったことを告げると、とても落ち込んだそうだが、いい気味だとしか思わなかった。
キィが箱も解体してしまったことを告げると、声を出す気力も無くしてしまったらしくそれ以降おとなしくしているそうだ。
少し調書が難航したものの、暴れられるよりはとそのままにしている。
キィが立ち会ったからかもしれないな。キィは術士として街で1、2を争う知名度だから、負けを認めたのかもしれない。
その調書で、工房にいた連中の特徴がわかり、逃げ込んだ先も見つけた。
例の詐欺師もそこにいるようだ。
何処でどうつながっていたのか知らないが、逃亡先は密輸組織が表向き経営していた劇場の1つだった。
裏の関係者は別件から引っ張って一通り捕まえたが、その後釜に収まったらしい。
大きな劇場だったから裏の事情なんて全く知らないものも多かったし、捕まったのも少人数で演目の評判も良かったせいで劇場自体は残ったからだ。
今度こそつぶさないといけないだろうな。
しかし、そうなると情報をいくらか表に出さないといけなくなる。
繁華街の劇場となると各長の許可もいるだろうし、手続きにしろ、事後処理にしろ面倒なことこの上ない。
まだ見ない詐欺師たちに別の怒りが湧いてくる。
またハルカと過ごす時間が減るじゃないか。