21
「ふふ。冗談だよ。ハルカさんが術士になったら、クルビスがすねてしまうしからな。」
焦った私にメラさんが楽しそうに声をかける。
ほ。メラさんは私が術士になったら離ればなれになるだろうって予想出来てるんだな。
「ああ。それはありそうだね。あの子は僕とメラのことを見てるから、余計に嫌がりそうだ。」
フィルドさんが苦笑しながら話についてくる。
そうだろうなあ。キィさんが勧誘した時の私の脅しにもあっさり屈したし。
「今日だって、よく離したものだ。まだ蜜月なのだろう?」
「ええ!大丈夫なの?あの子。」
メラさんの発言にイシュリナさんがとても驚いている。
ここでも、準ドラゴン扱いみたい。ルシェリードさんも目を見開いてるし。
「ここにいる分には大丈夫、みたいなことを言ってた。」
「夕方まで持つかな?」
メラさんの大丈夫に聞こえない発言にフィルドさんが考え込む。
そこまで束縛は酷くないと思うけど…。
あ、でも、夕方は転移局まで迎えに来てるっけ。
今じゃあ、私の護衛というより、外でのデートみたいに感じてるようだし。
「どうだろうな。結局、雨季の時も籠らなかったのだろう?」
「はい。でも、なるべく2人でいられるようにはしています。最近だと、転移局の仕事が遅くなっても日が落ちるくらいまでは待ってくれましたし、事前にわかっていれば、多少は、大丈夫みたいです。」
多分。おそらく。少しは。
自信なんてないけどね。
「それはハルカさんのおかげだろうね。」
私の自信なさげな発言に、フィルドさんが目を細めて褒めてくれる。
え。どっちかと言うとクルビスさんの我慢強さのおかげじゃ。
「そうだな。伴侶の心が自分に向いてると確信が無い限り、そんなことは出来ん。ドラゴンが蜜月に伴侶を縛るのは、愛があるのはもちろんだが、不安からもくるものだ。」
「ドラゴンは伴侶に全てをささげてしまうからね。」
ルシェリードさんとフィルドさんの言葉に、雨季に私を離さなかったクルビスさんの様子を思い出す。
他の誰かに目を向けただけで機嫌が悪くなって、むくれて、縋りついてくる。
何となくわかるかも。
ドラゴンの蜜月って、恋の延長みたいな部分があると思う。
普通のそれよりもっと強くて濃い執着だけど、恋なんて相手に執着することから始まるし。
全てをささげてしまう程なら、なおさら強く執着するだろう。
でも、それならお互いさま。
なんせ、世界にこれからずうっと一緒にいますって宣誓しちゃう女ですから。
「じゃあ、お互い様ですね。私、世界に一緒にいますって宣誓しちゃいましたから。」
うわあ。自分で言うと、すごく重たい女。
でも、ドラゴンの血の濃いクルビスさんにはこれくらいでちょうどいいかも。
宣誓したことはこれから先も後悔しない。そう決めたの。
異世界に残るって、あのひとの傍にいるって。自分で。