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「では、まず、運ばれてきたヘビの一族のカバズさんの現在の状況についてご説明します。彼は雨季の前に騙されかかったことがわかっています。それについては皆さんご存知のようですね。」
フェラリーデさんが周りを確かめるように見回し、話を進める。
カバズさんが騙されかかったことって、結構有名になってるんだなあ。
まあ、お祭りの日にあれだけ派手に喧嘩してればねえ。
止めに入ったのがクルビスさんだったし、後でうんざりするほど事情を聞かただろう。
「大体の事情はすでに聞き取りを終えていますが、雨季の直前でしたので、魔素の認証を必要とする正式な調書は雨季の後に作ることになっていました。未遂でしたし、表向きは仕事の依頼として問題もなかったため、緊急性はなく、カバズさんの都合の良い日に作ることになっていたのです。それが明日でした。」
ああ。そっか。雨季前は忙しいから。
詐欺が発覚したのが私たちの結婚式の夜で、その一週間後くらいには雨季に入ったんだよね。
降り始めたと思ったら、どんどん雨が酷くなるから台風かと思って心配になったのはいい思い出だ。
およそ2か月は続くその雨で出かけられなくなる前にって、雨季の前には店仕舞いセールや雨季前の納期の仕上げなんかがあって、すごく忙しい時期なんだよね。
それでトラブルも日ごとに多くなって、守備隊も忙しくなったから、クルビスさんも休みが休みにならなくなったんだよねえ。
朝にお仕事に出てもらうように説得するの大変だったなあ。何でか、私が夜のご奉仕することになってたし。
「ですが、今日のこの事態です。あまりにもタイミングが良すぎます。腕に術式があったということですが、カイザーさん。雨季の前など、転移局で他のひととの接触していたりするのを見ていませんか?」
ああ。いけない。思考がそれた。
接触かあ。雨季の前だと転移局にはひとがごった返していただろうし、接触してたとしても気にし無さそうだけどなあ。
フェラリーデさんの質問に、カイザーさんは少し考えて首を横に振る。
忙しい時なのに記憶あるんだ。すごいなあ。
「いいえ。カバズさんはうちの事情をよくご存知でしたから、荷物の持ち込みもひとの少ない、昼時や夕方でした。その時に他のお客様はいなかったと記憶しています。ですよね?キャサリンさん?」
「そうですねぇ。うん。他にお客様はいなかったですねぇ。雨季の前に3回いらしてますけど、3回ともおひとつでしたし、他にお客様もいなくて、差し入れ持ってきて下さってお礼を言ったりしてますからぁ。はっきり憶えていますぅ。」
カバズさんひとりだったんだ。
魔素も揺れていないし、カイザーさんもキャサリンさんも自信を持って言ってるようだ。
差し入れまで貰ってたなら、他のことより記憶もしっかり残ってるだろう。
大変な時にもらう差し入れって嬉しいしね。
倒れる前もキャサリンさんの心配をしてたし、普段のカバズさんはいいひとなんだろうなあ。
じゃあ、転移局では誰かとの接触はないってことか。