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予想通り、ドラゴンの梅酒は結構濃かった。
私があまりお酒に強くないのは伝わってるみたいで、水で割ったものを出してもらったのだけど、それでも濃いと思うくらいだった。
「これは漬け込んでどれくらいになるんですか?」
「そうだな。三月、と言ったところか?」
「そうですね。今年のですし。」
ええ。3ヶ月でこんな濃さになるの?
早すぎるでしょ。
「早くないですか?」
「ああ。里で漬けたものは熟すのが早いんだよ。」
私の疑問にフィルドさんが答えてくれる。
ああ。ドラゴンの里ならではの不思議効果か。
結界で包まれてるんだもんね。
気候も湿度も違ったし、外と違ったことが起こっても納得できる。
「結界の効果ですか。すごいですねえ。」
「ほう。ハルカは結界の効果だと思ったのか?」
私が感想を言うと、ルシェリードさんはそれに興味を持ったようだ。
え。でも、今の話を聞く限り、結界の効果でしょう?
「違うんですか?」
「いや。あってる。だが、何でそう思った?」
くつろいだルシェリードさんが口調を崩しながら、さらに突っ込んでくる。
何でって言われても。
「ええっと、結界って、外と中を隔てるんですよね?ドラゴンの里にお邪魔したとき空気が変わりましたし、気候も違いました。中は暖かったですし、暖かいと発酵も進みますし、だから、結界の中だと外と違った効果があるんだろうなあって。」
思ったんですけど、皆さん目を軽く見開いてらっしゃる。
あれ?やらかした?いや、でも、封印の話をこの前クルビスさんから聞いたばかりだし、それを思い出して似てるなあと思って理由づけしたんだけど。
「ふむ。成る程、理屈だな。」
「説明してなかったんですか?」
「暖かくしてあるとは言ったが、細かいことは何も言ってないぞ。」
私の説明にルシェリードさんが納得すると、フィルドさんが不思議そうに話にまざる。
もしかして、ドラゴンでは当たり前のことなのかな。
でも、授業では何も習わなかったんだけど。
そこにメラさんから声がかかる。
「結界の効果は、たしかに外と中を隔てて、中の状態に条件を付けるものだ。自力でその答えにたどり着いたとは、術士の素質があるな。」
ぎく。
恐る恐る見ると、メラさんの目が獲物を見付けた狩人のようにギラリと光っている。
うわあ。せっかくキィさんから余計な話がいかないようにしたのに。
まずいこと言ったかも。
「いえ。ドラゴンの里に招待してもらったから、そう思ったんです。とても暖かかったですから。」
ええ。断じて、自力で考えたとかじゃありませんから。
単純に、暖かいとお酒も早く漬かりそうだなあと思っただけですから。