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「じゃ、俺は戻ります。今年はまだ取り引きが終わってないので。ハルカさん。今度、ローズにジャムの作りかたを教えてやってくれ。」
「はい。」
「なんと。忙しいのに持ってきてくれたのか。ありがとう。フィルリエ。」
どうやら、アーネストさんがここへ来たのは、ドラゴンの里から来たお酒を受け取るためだったみたい。
しかも、まだその取り引きは終わってないらしい。良かったのかな。
「いいえ。うちの若いのがよくやってくれてますんで、そっちは大丈夫です。」
「助かったよ。今年は多めに注文したら、大がめ2つになってしまって。どうしようかと思ったんだ。」
「ハルカさんが来るからって頼み過ぎだろ。俺がいなきゃどうしてたんだ。」
感謝するフィルドさんにアーネストさんが呆れたように言う。
この大量のお酒、私が来るからだったんだ。こんなに飲めないんですけど。
「その時は1つずつ運ぶしかなかったね。」
「そうなると、うちの酒だと勘違いされて持ってかれたな。」
「だから、助かったんじゃないか。今度おごるよ。今年の星見は家族で過ごすんだろ?」
「ああ。秋から甥っ子ふたりが訓練生になるからな。門出の祝いだ。」
笑いながら話すフィルドさんとアーネストさんを見てると、ホントに仲が良いなあと思う。
そこにいつの間にか、大きめのカップになみなみと注がれた梅酒が差し出される。
「ははは。なら、駄賃がわりに、1杯くらい飲んでいけ。味見をしたが、今年は良い出来だぞ?」
「…では、1杯だけ。」
ルシェリードさんが差し出したお酒をアーネストさんは両手で恭しく受け取る。
それをとても美味しそうに飲み干すと「これは美味い。」と顔を輝かせて言った。
「そうだろう。きっとヘビの一族に降ろした酒もよく出来てるだろう。」
「それは楽しみです。では、私はこれで。ご馳走さまでした。良い星見を。」
「ああ。良い星見を。」
「良い星見を。」
そう言って、お酒のカップをフィルドさんに渡すと、上機嫌でアーネストさんは帰っていった。
あたりには濃厚な梅酒の香りが漂っている。
「客が来るから多めにとは言ったが、たしかに多いな。」
「そうなんですよね。私とお父さんも飲むと言ったので、ドラゴンの客だと思われたのかもしれません。」
「成る程。それはありそうだ。」
どうやら、この大量のお酒は情報の伝え不足が原因らしい。
いくら本体じゃないとはいえ、ドラゴンが酒を飲むって言ったら、結構な量が必要だもんね。
私に飲ませるなら、いつもの量で良かったのに。
濃そうな梅酒だから、割らずに飲むとなるとカップ1杯が精一杯なんだけど。