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私が近寄ると、ルシェリードさんがアーネストさんからお酒を受け取る。
上に付いてる皮みたいなフタを取ると、ふわりと甘酸っぱい香りが広がった。
この香りは良く知ってる。
梅酒だ。でも確かこっちでの名前は。
「ドリアン…?」
「そうだ。こちらは甘くないがな。この時期にちょうど出来上がるから、星祭にはこの酒を飲むようになった。」
異世界では七夕に梅酒を飲むんだ。
たしか、ドラゴンの梅酒は酸味が強くてさっぱりしてるんだよね。
結婚式の前にドラゴンの里にお邪魔した時はまだ時期じゃなかったから、飲むことは出来なかった。
代わりに、梅もどきのドリアンをいくつか貰ってジャムにして、知り合いにおすそ分けしたけど。
甘い梅酒はまだ作っていない。
メルバさんに相談した所、氷砂糖みたいなものはあるらしくて、出来ることは出来るけどもこれからかなり湿気も増えるし暑くなるから、下手するとお酒にならず腐ってしまう可能性が高いと止められた。
やるなら、もっと涼しくなってからの方がいいとアドバイスされ、秋に仕込むことになっている。
どうやらあー兄ちゃんがチート技で作ったのを飲んだことがあるらしく、メルバさんも作るのを楽しみにしている。
「いい香りですね。」
「そうだろう?この間は飲ませてあげられなかったからな。ドリアンで作ってくれたジャムのお返しだ。」
律儀だなあ。
ドリアンでジャムを作ったって言っても、おすそ分けした量はせいぜい小さいタッパー1つ分だ。
メルバさんがついでにとルシェリードさんに届けてくれたんだけど、ドリアンジャムは気にってもらえたらしく、ドリアンの実はこれからきちんと収穫することになったそうで、街でも定期的に手に入るようになった。
「ああ。あのジャムハルカさんが作ったんですか。とても美味しかったよ。なあ、フィルリエ。」
「あ。それって、この間俺ももらったやつか?あれは美味かった。あんな食べ方もあるんだな。」
知らない間にフィルドさんとアーネストさんも食べていたらしい。
ちなみに、フィルリエとはアーネストさんの幼名だそうだ。
ヘビの一族は最初の脱皮が終わるまでは幼名を名乗る習慣があって、その名前は親じゃなく縁のあるひとに名付け親になってもらうのだとか。
アーネストさんの名付け親はルシェリードさんで、アーネストさんは自分の幼名をとても気にっていて、いまでも親しいひとには呼ばせているとクルビスさんに教えてもらった。
フィルドさんとアーネストさんは幼馴染の親友だから、幼名で呼んでるみたいだ。
それにしても、意外な所でドリアンジャムが好評だなあ。お酒の好きなひとって甘いの苦手だと思ってた。