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「あら、もうこんな時間。そろそろ作り始めないと間に合わないわね。」
イシュリナさんがふと思い出したように外を見る。
時計台がなったみたい。さすがに中央地区なら私でも音が聞こえる。
「父さんもフィルドも良く食べるから。」
「そうねえ。あの2つったら、食べようと思えばいくらでも食べるんだもの。」
恐ろしいこと聞いちゃった。
クルビスさんもそうだったらどうしよう。
「ドラゴンって魔素酔いを起こさないのかしら。」
あ。ドラゴンの一族だけみたい。ほ。
それにしても何人前作るんだろう。
米粉といってもかなりの量があるんだけど。
イシュリナさんがボールに目分量で分けていくのを見ながら、後から後から出てくる米粉に驚いていると、メラさんが説明してくれた。
「すごいだろう?どう考えても入らない量なのに入るんだ。」
「こんなにたくさん入ってるとは思いませんでした。」
アイテムボックスみたいな袋なのかな。保存袋とはちょっと違うよね。
メルバさんの発明っぽいなあ。
5つの大きなボールに3分の1くらい入れ終わると、水を少しずつ入れながら静かに混ぜていく。
一気に水を入れるとダマになるので良くないと教わりながら、イシュリナさんに習ってメラさんと私も混ぜるのを手伝う。
生地がまとまると、別に用意しておいたらしい少量のペースト状の青や黄色、それにどぎつい紫や赤が出てきた。
イシュリナさん曰く、これは薬草や食べられる花なんだそうだ。
荒野でも育つ強い種類らしく、色も濃かった。
それが白い餅生地と練り合わさると、綺麗な色になる。
ピンクに水色、それに淡い黄色にラベンダーの可愛いパステルカラーだ。
白のままの生地もあって、全部で5色になる。
「綺麗な生地ですね~。」
「ふふ。ハルカさんならそう言ってくれると思ったわ。この色もあって、一族はこちらに移ってからはあまりこれを作らなくなったのだけど、やっぱり星祭にはこれがないとね。」
あまり作らなくなったのかあ。
やっぱり、「白い」食べ物だからだろうなあ。
それにこれ、作るのにすごく手間がかかるもんね。
米を粉にしたり、色つけるために薬草なんかをペースト状にしたり、準備だけでも大変だ。
家庭でちょっと作るのには向いてない、まさに特別な料理だよね。
話してる間に次の工程に移っていて、生地を手の平より小さいサイズに丸めて台の上に載せていく。
それを伸ばして、厚めの餃子の皮みたいにする。
薄いパン生地っていっても通じるかも。ピザの生地みたいなやつ。
具はどうするんだろう。わくわくしてきた。
そういえば、私って異世界の料理をちゃんと習うのこれが初めてかも。