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「もしかして、こねると伸びたりしますか?」
「…ええ。そうね。だから、棒のように伸ばす家もあるの。スープに入れたりするけど、変わった食感だから苦手なひとも多いのだけど。」
「知っているみたいだな。」
イシュリナさんがジェスチャーを交えて説明してくれる。
棒のように伸ばすってどれくらいかわからないけど、それならきっとお餅のたぐいだろう。
餅っぽい食感でもこの際OKだ。
期待に胸が膨らんでくる。
「故郷の穀物に似てるので。そっちは休眠期に食べるものなんですけど。それも色は白くて、でも、粉にはせずに粒のまま蒸して、特別な道具で粒が消えるまでつくんです。
とてもやわらかくて伸びる食べ物なんですよ。スープに入れたり、薬草や野菜、干した魚介なんかを混ぜたりして、味を変えて楽しんだりするんです。」
すごい偶然だなあ。
きっとまったく同じじゃないだろうけど、餅っぽい食感は味わえそうだ。
ん?メラさんとイシュリナさんが茫然としてる。
あれ。何かマズイ事言ったかな。
「偶然、というにはあまりに似てるな。」
「ええ。不思議なことだわ。世界が違うのに、こんなに似てるなんて。」
そう言われれば。
七夕については、まあ、自然信仰の1つだと思えば納得できる。
でも、お餅までってなるとねえ?
あー兄ちゃん経由じゃないだけにとても不思議だ。
その時、ふと頭の中にクルビスさんと見た桜が出てきた。
もしかして、お餅も何かの拍子でこっちに来たのかも。
もち米とか餅料理とか。
あれだけ桜がトリップしてたなら、他のものだって移動してるだろう。
もしくはこっちに元々あった穀物が日本に移った、とか?
いや、それなら、白くないと思うから、やっぱり日本からのトリップかな。
「もしかして、これも私の故郷から伝わったのかもしれませんね。」
桜各市がまだ「桜隠」の字だった頃、ううん、まだ村と呼ばれた頃とか、もっと前に。
餅なら神隠しじゃなく、泥棒だと思われただろうけど。
「そういえば、父がある日現れた花の木のことを話してくれたことがある。」
メラさんが私の話で気付いたようにポツリとこぼす。
桜を見付けたのはルシェリードさんだから、メラさんも聞いてるだろうと思った。
「この前、クルビスさんに連れて行ってもらいました。」
「では。」
「はい。故郷の木でした。桜と言います。花は咲きっ放しで、少し変わってしまっていましたけど。」
狂い咲いた桜が脳裏に蘇る。
あれは異世界に来たからああなったんだろう。
もしかしたら、同じようにもち米だって異世界に来て変化があったのかもしれない。
でも、桜の花びらが同じ色だったみたいに、もち米も同じ色なんじゃないかな。
だから、ここでは珍しい「白い穀物」になってるんじゃないだろうか。
そんな妄想が頭に浮かぶ。
だって、私の髪も元の黒髪のままだもの。
エルフの皆さんは髪の色が変わってしまったようだけど、桜が変わらないなら私の髪も元の色のまま残ったと考える方が自然だ。
「そうなの。不思議ねえ。この穀物のおかげで、我が一族は救われたのに、それが異世界のものだったなんて。」
一族が救われたって、なんだか前にも聞いたような。
でも、今回はあー兄ちゃんは関係ないんだよね?