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「すみません。イシュリナ様~。」
話が盛り上がってる所にさっきの八百屋のおじさんが来た。
いつの間に。気配感じなかったけど。
手には袋を持っている。
あれが頼まれものかな?
「頼まれてたやつ、粉にしたの持ってきましたよ~。」
「あら。ありがとう。重かったでしょう?」
「いえいえ。これくらい何てことないですよ。」
「じゃあ、台所まで持ってきてもらえるかしら?」
おじさんは器用に片手を上げて私たちに挨拶して奥に行った。
日よけを取った私を見ても驚いた様子はなかったから、正体はバレてたみたいだ。
「グッジのおじさんは元中央本隊の術士部隊副隊長だったひとだから、魔素には敏感なんだ。」
元副隊長さん。
成る程ねえ。気配を感じなかったのも元隊士さんだからかあ。
クルビスさんもたまに気配なく傍に来てたりしてビックリするからなあ。
他の隊士さんも足音なんかはすごく静かだし、気配を消せるのも隊士さんの必須能力なんだろうか。
「ふふ。あのひとは特別だよ。」
私の考えてることがわかったのか、おかしそうにメラさんが言う。
クルビスさんにも言われたけど、私の魔素はわかりやすいらしい。それとも顔に出てたかな?
「な~に言ってんだ。メラちゃん。褒めてもなんも出ねえぞ。」
「うん?おじさんは鋭いって話だよ。」
「ははっ。そりゃ、長さまに鍛えられたからなあ。」
えっと、ルシェモモで「長」って言ったら、普通はメルバさんのことだっけ。
メルバさんも昔は隊士さんとして活躍してたみたいだし、おじさんはその頃に隊士さんだったみたい。
メルバさんに鍛えられて中央の副隊長までいったなら、すごく優秀だったんじゃないかなあ。
カラリと明るく笑ってるけど、すごい人だよね。
「じゃ。また寄ってくれよ。」
「ああ。また。」
「お世話様でした。」
おじさんを見送ると、イシュリナさんがガチャガチャと大きめのボールを幾つも出す音が響く。
私とメラさんが向かうと、イシュリナさんはボールにさっきおじさんが持って来た袋の中身を入れていた。
「綺麗。」
白い粉だ。
こっちにも白い植物ってあったんだ。
「ふふ。これはね、めずらしい精製をした穀物で、星祭ではこの白い粉を使うの。それを練って、生地にして、星の形に切るのよ。中に具を入れる家もあるけど、私の生まれた家はいろんな野菜を入れて、色を付けていたわ。」
何だかお餅みたいだなあ。
よもぎ餅みたいな感じになるのかな。
「味がないから、塩や今は蜜にショーユなんかもつけるわね。」
ますますお餅だ。
え。もしかして、これは期待できるかも?