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「あの子がねえ。良かったわあ。なら、今年はあれも食べる暇があるかしら。」
「はは。ハルカさんが持っていけば食べると思うよ。」
ん?あれ、とは?
そういえば、今日は何かあって、それで呼ばれたんだっけ。
「もうすぐ星祭といってね、星を眺めながら一年の息災を願う行事があるの。その時に特別な食べ物を食べるんだけど、それを作るのを手伝ってもらおうと呼んだの。」
星に願うって、七夕だよね。
異世界にも七夕ってあったんだなあ。
もしかして、これもあー兄ちゃん?
ん~。にしては、ちょっと違うよねえ。
あー兄ちゃんが伝えたなら、イベントっぽい短冊で好きな願い事を書くって部分は絶対入ってるだろうし。
こっちの星祭は一年の息災を願うとか、特別な食べ物を用意するとか、すごく真面目な行事に思える。
七夕といえばそうめんだけど、こっちでは何を作るんだろう。
クルビスさんが食べるかどうかって言ってたけど、食べ難いものとか?
「もともとはカメレオンの一族の行事だったのだけど、私が長さまやアニエスに教えたら気に入ってね。星空を楽しむ習慣はあったから、そのまま深緑の森の一族やシーリード族に広まって、今ではちょっとしたお祭りねえ。」
楽しそうに教えてくれるイシュリナさん。
カメレオンの一族の行事だったんだ。
どうりで、ちょっと違うと思った。
異世界で似たような行事ってあるんだなあ。
にしても、お祭りみたいになってるってのは親近感わくなあ。
日本と同じで、もう元の意味はあまり残ってなくて、イベントの一つと化してるみたい。
「故郷にも似た行事があります。願いごとを短冊に書いて、笹という植物に飾って星に願うんです。」
「まあ!似てるわねえ!」
「すごい偶然だな。」
私の説明にイシュリナさんもメラさんも驚いている。
私も驚きました。
エルフ経由のあー兄ちゃん知識でもなく、純粋に星に願っていた行事があったなんて。
本来の七夕に近いものみたいだから、自然信仰の一種ってとこかな。
「料理も、細い麺類を食べることになっているんです。」
詳しいことは知らないけど、古くからある習慣だ。
そうめんになったのは結構後らしいけどね。
「まあ、食べる物も決まってるなんて、ますます似てるわ。」
「不思議なものだ。」
「星空って綺麗ですから、ずっと見てたらきっと祈りたくなっちゃうんですよ。皆。」
適当なことを返すと、そうかもと頷かれる。
最初の起こりはどうであれ、続いてるってことは結局そういうことなんじゃないかな。
キャンプで初めて満点の星空を見た時の感動は忘れられない。
あの星空を見てたら、祈りたくなっちゃっても仕方ない。