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「さあ、座って、お茶を淹れるわ。今日はビビ茶があるの。」
「へえ。リビの店にいったの?」
「ええ。この間、久しぶりにね。料理教室で北に行ったら懐かしくて。後でアニエスと北でデートしたのよ。」
こっそりとだけどね。と私を見ながら楽しそうに話すイシュリナさん。
ルシェリードさんとデートかあ。こっそりってどうやったんだろ。
隠れなきゃ大騒ぎになるとは思うけど、ルシェリードさんってシーリード族の中でも体格いい方だし、どうやっても目立つよね?
あ。でも、北西の地域の屋台にも時々顔を出してるみたいだし、皆も知ってて知らないフリをしてるのかも。
和やかに会話していると、この家の通信機がなった。
何事だろうとメラさんが急いで出ると、何と通信機の相手はシードさんで、要件は例の売れなかったチケットを急いで譲って欲しいということだった。
「それは構いませんけど。えっと、チケットは部屋に入って左の一番手前の引き出しに入っています。クルビスさんがよく小物を入れてる所なんですけど…。」
とにかく急いでる様子だったので、詳しくは聞かずに置いてる場所を伝える。
シードさんにはそれでわかったらしく、お礼を言われてすぐに通信は切れた。
「相変わらず忙しない坊やだ。まあ、急ぐ時には役立つか。」
メラさんにとっては、シードさんも坊や扱いかあ。
まあ、小さい頃から知ってるなら、親戚みたいなものだよね。
それにしても、あのチケット何に使うんだろう。
クルビスさんでなく、シードさんが急いで連絡してきたってことは、お仕事で使うのかな?
「あら。もう終わったの?何かあったの?」
「ああ、でも、そう大したことじゃなかったみたいだ。ね?」
不思議そうなイシュリナさんに、何でもないと笑うメラさん。
メラさんの問いかけに私も笑って頷く。例の箱の件で心配かけちゃってるし、イシュリナさんにはこれ以上心配はかけたくない。
この話はこれでお終い。
気になるなら、後でクルビスさんに聞いたらいいしね。
「あら、そうなの。それで?今日の戦利品は何?」
私たちの様子に納得したイシュリナさんは、ウキウキした様子で、買い物の様子を聞いてくる。
うんうん。買い物って、人が買ったものを見るのも楽しいよね。仲の良い相手に限るけど。
「ああ。新作のポットが出てたんで、買ったんだ。ほら。」
「まあ。可愛い。」
「ハルカさんの式の衣装からヒントを得たんだって。これは海の輝石だそうだよ。」
「あれは素敵だったものねえ!ご近所でも評判で、どこで買えるのかって、あちこちの店に問い合わせが殺到したんですって。」
イシュリナさんがお披露目したポットとカップを、目を輝かせて見るイシュリナさん。
知らなかったけど、白の輝石はずいぶん好評だったみたい。
少なくとも、この辺りでは受け入れられたのかな。
「白が」っていうより、宝飾品としての「白の輝石が」だろうけど。それでもいいや。
白の輝石を扱ってるのはグレゴリーさんだけだって言ってたから、きっと彼の所にお客さんだけでなく、同業者からも問い合わせが殺到しただろう。
大変だろうけど、喜んでるグレゴリーさんが想像できる。
「良かったわねえ。ハルカさん。」
「はい。グレゴリーさんのおかげです。とても立派な輝石を用意して下さって。」
「ああ。彼が用意したのか。流石だな。」
へえ。グレゴリーさんって有能なんだな。
メラさんの話によると、グレゴリーさんの宝飾に関する目利きはとても有名らしく、黄の一族が宝飾品を多数の店舗で売っていても、グレゴリーさんの直轄の店はワンランク上のものが揃っているらしい。
私が身につけた白の輝石のグレードは最高ランクのものだったけど、海の輝石と呼ばれる真珠は中々粒がそろわないらしくて、あのクラスのものは滅多にお目にかかれないものなんだそうだ。
あれ、メルバさんがポンと買ってくれたけど、やっぱりものすごくお高かったんじゃ…?