17
「そっかあ。ありがとう。キャサリンちゃん。えっと。じゃあ、僕の見たことを話すね。術式への見解はそれから話そうか。」
メルバさんの口調がお医者さんモードの淡々としたものに変わる。
いつも不思議だけど、調子のいい独特のしゃべり方から、急にこのちゃんとしたしゃべり方に変わるんだよね。
淡々としゃべるのは、前に冒険者をしてた時の名残だって聞いた時は驚いたけれど。
雨季の時に、暇を持て余してる私にあー兄ちゃんの話に交えて教えてくれたんだよね。
いつものしゃべり方が素のメルバさんなんだけど、それだとヒト族の偉い人と話す時に問題があって、お医者さんや魔術師としての仕事をする時は淡々と話す癖をつけたんだって。
その生活が長くて、すっかり身についてしまったから、もう自分でも意識してないって言っていた。
その話を聞いても、まだビックリするけどね。
そのうち慣れるのかなあ。
「僕が行ったのはたまたまなんだ。メロウちゃんの食堂でたまにご飯を食べるんだけど、食堂に入った途端、魔素が大きく膨れ上がってるヘビの一族の子がいて、それが見る間に膨れ上がっていくから、緊急事態だと判断して、咄嗟に魔素を散らす術を組んでかけたんだよ。その反動で彼は気を失って、ここへ運ぶことになったんだ。」
すごく簡単に説明されたけど、これってすごいことだよね?
魔素を散らすなんて、そんなこと瞬間で出来るものなのかな。
キィさんやフェラリーデさんのギョッとした顔を見る限り、違うみたいだけど。
もしかして、メルバさんしか出来ない荒業だったりして。きっと当ってるんだろうな。
「それで、僕が直接魔素に触れた感触としてはね。ふたつ分の魔素が問題のヘビの一族の子を包んでたんだよね。1つはもちろん本人のもの。もう1つがたぶんかけた術士のものだろうね。皆は知らないかもしれないけど、昔、治療に使ってた方法に似てると思ったよ。
魔素の不安定な患者に術者が魔素の網をかけて、安定させるんだ。今は患者の内側で魔素を同調させて安定させるけど、昔は外から治療してたんだよ。今回のは魔素の発動の練習に使うやつに似てたけど、たぶん元は同じものだと思う。それを感情のままに膨れ上がらせるっていうのに、変えてあったんじゃないかな。」
治療方法だったなんて。
私以外でも知ってるひとはいなかったのか、皆さん口をぱかりと開けて驚いている。
クルビスさんも珍しく動揺してるのが魔素でわかるし、問題の術式は今ではかなりめずらしいものみたいだ。
でも、そんなもの誰がわざわざカバズさんにかけたんだろう?