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予想は当ったらしく、クルビスさんはどんどん山に入っていった。
異世界初日で最初にいた場所のさらに奥、もう道なんて無いのにそんなのものともせずに進んでいく。
途中で方向を変えたりしてるから、真っ直ぐ来たわけじゃないのはわかるけど、今どの辺かと言われてもわからない。
ルシェ山の麓だってことくらいかなあ。
ポムの小道を外れたら危険な動物も出てくるはずなんだけど、それもちっとも姿を現さない。
本当にここはどこなんだろうと思ってたら、鬱蒼とした緑の中、突然、薄いピンク色が目に飛び込んできた。
「ここだ。やっぱり、ハルカは知ってるみたいだな。」
うん。知ってる。
だって、これ。これって。
「桜…。」
目の前にあるのは、巨大な桜の木だった。
もう夏になろうかというこの時期に咲くものじゃないし、見慣れた桜に比べて10倍くらい大きな巨木なんだけどね。
でも、独特のシマ模様の入った幹に、白くけぶったような淡いピンクのハートの花びらは間違いなく桜だ。
どうして。なんでここに桜が。
「ずいぶん昔に、突然現れたそうだ。見つけたのはルシェリードの祖父さんだな。小さな木だったのに、周りの魔素をどんどん吸収して、あっという間に大きくなったと聞いている。」
突然現れた。
それって。
「じゃあ、これも異世界から?」
「恐らく。確信したのはハルカの持って来た荷物に、この花と同じモチーフが使われていたのを見た時だ。紫の染めに、美しく花が散らされていた。」
私の巾着。
そう。あれは紫の地に桜の花が散ってるのを気に入って買ったものだ。
私の荷物を見てもらった時にクルビスさんがずいぶん熱心に見ていたけど、あれは桜の花を知ってたからだったのかも。
あの後、絶対外に出してはいけないって言われて、私の荷物は箱に入れてしまいこまれている。
技術がお金に直結する世界だから、私の荷物はかなりの価値があるそうだから。
今の私の立場でも、見つかったら危ないだろうなあ。
でも、部屋でこっそり見る分には問題ないよね。久々に出そうかな。
たまには風を通して虫干ししないと、傷んじゃうし。
「何故か、年中花が咲いているんだ。この木は元々そういうものなのか?」
「いいえ。私がこちらに来た日の気温でちょうど満開くらいです。この花は春を象徴する花なんです。」
年中咲いてるって、狂い咲きですか。
これも異世界に来た影響かなあ。
「あの寒さで満開か…。じゃあ、これはこちらに来た影響だな。」
「たぶんそうだと思います。」
年中咲いてる桜なんて、聞いたことがない。
まあ、大きさも屋久杉かってくらい、おかしいくらいの巨大さだし、生態が変わってても不思議じゃないけど。