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「今日はちょっと連れていきたい所があるんだ。」
やっと終わった朝食の後、クルビスさんはそう言った。
どこに行くのか聞いてみたけど、「ついてからのお楽しみだ。」と楽しそうに言って教えてくれなかった。
上機嫌なクルビスさんに連れられて、以前通った裏道を抜けて守備隊の外に出る。
あの時より日差しも強くなって、草も最近は青緑がさらに濃くなって黒っぽさが増していた。
「ほら、フードはもっと深くかぶった方がいい。」
何だか異世界初日のあの時みたい。
今日は1日部屋にいると思ってたから意外だ。
あの時みたいに手をギュッと握られ、手を引かれるままに街の路地を抜けていく。
裏路地のさらに裏っかわなのかな?
前の時より、さらに入り組んだ道を進む。
誰ともすれ違わないんだけど、この道って大丈夫なのかな。
右、左、真っ直ぐ、左、左…、もうわかんない。
これ、手を離したら確実に迷子だ。
手をギュッと強く握ると、柔らかく握り返される。
あの時と同じだなあ。
あの時は本当に街に不案内で、森に行くんだってわかってても入り組んだ道が怖くて、迷子にならないようにクルビスさんの手を必死につかんでたっけ。
もしかして、今日も森に向かうのかな?
方角的にそれっぽいけど、それにしては人通りの無い所進むなあ。
あ、木製の壁の所まできちゃった。
この向こうって川だよね?
街を守る外壁ぞいにゆっくり進む。
右方向からは遠くでにぎやかな音が聞こえる。
きっと朝の市場だ。
街の外壁に近いほど繁華街からは離れることになるって聞いたけど、結構遠いなあ。
その分、家賃も安いらしいけど、こうひと気がないと危ない感じもする。
そんなことを懐かしく思い出しながら歩いていると、外壁の終わりが見えてきた。
森の入口の所に立っていた隊士さんが私たちに気づいて、慌てて礼を取る。
視線で「どうしたんですか?」と聞かれたけど、クルビスさんは何でもないという風に軽く首を振り、私に視線を寄越す。
それだけで何か察してくれたらしく、隊士さんは胸に手を当てて見送ってくれた。
「さて、ここからは抱いて行く。少し遠いんだ。」
森に入った途端、両手を広げてそう言われる。
お姫さま抱っこですね?わかってますとも。
抵抗する気もないので、素直に抱っこされることにする。
私を抱き上げた途端、クルビスさんはすごい速さで歩き始めた。
走ったら私の身体が付いて行かないからだけど、早歩きだけで自転車に乗ってるみたいなものだ。
少し遠いって言ってたけど、山の方でも行くのかな。