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「う~ん。そっかあ。じゃあ、次はキャサリンちゃんの話聞いていい~?見たこと感じたことそのまま話してもらっていいから~。その後で、僕が見たことを話すよ。」
難しい顔で指を組みながら、メルバさんが話を先に進める。
カイザーさん、私ときて、次はキャサリンさんの番だ。
例の術式については見えたひとと見えなかったひとに分かれて、見えたのは私とキャサリンさんだけ。
彼女にはあの黒いもやはどう見えたんだろう?
「ええ~と、そうですねぇ。ハルカさんがカバズさんに声をかけた所までは皆さんと同じです。私は、術式のような魔素の塊は透明なモヤといいますかぁ、綿のようなふわふわした塊に見えます。術式によっては透明な編み物みたいに見えたりもします。魔素が糸状になって見えるわけですねぇ。
それで、カバズさんの腕を見た時ぃ、肩に近い部分に塊が見えました。魔素が固まっていたので術式だと思ったんですが、変わった術式で糸の束をゆるく巻き付いてるように見えましたぁ。」
私は色つきの霧みたいなもやで見えたけど、キャサリンさんには透明な糸みたいに見えたなんて。
本当にひとによってかなり見え方が違うみたいだ。
全員から話を聞きたがるはずだ。
同じものを見たはずなのに、見えたものが全然違うんだから。
「それで、私、これは普通の術士では手におえないと思って、「守備隊で見てもらった方がいい」って勧めたんですぅ。しかも、カバズさん怖がりだから、こういうことははっきりさせないと、気になって夜も眠れなくなるので。だから、余計に勧めましたぁ。」
ええ。カバズさん怖がりさんだったの?
うわあ。それは悪いことしたなあ。
いきなり「腕のそれなんですか?」なんて、見えないひとに聞いたら怖がられるよね。
あ。もしかして、カバズさんの興奮の原因って…。
「でもぉ、カバズさん意地っ張りだから、いつも「俺は何ともねえ!何もねえだろ!」って口癖みたいに言って、自分を誤魔化すんです。それをからかいながらも、何とかしてあげるのがルイさんで、近所では有名でした。私が守備隊に行くのを勧めた後も、そういう反応がいつもは返ってくるはずだったんですけど…。」
ああ。そうか。だから「何なんだよ!」になるわけだ。
あれは自分を奮い立たせるためのセリフだったんわけだ。
でも、いつも通りにはいかなかった。
あの腕のもやのせいだ。
「あの時、いつもみたいに「何なんだ!」って言ったんです。でもぉ、その後はいつもと違って、一気に魔素が膨れ上がって、怒鳴り散らすみたいに「何だ」や「何で」って言い始めてぇ。
おかしいと思ったら、腕の周りの魔素の糸が広がって、カバズさんに日よけみたいに覆いかぶさってましたぁ。それ以上はわからなくて困ってたらぁ、長さまが到着されて、カバズさんを抑えて下さって、今の状況になってますぅ。」
カバズさんを抑えた?
私にはわからなかったけど、メルバさんが何かしてくれてたみたいだ。
まあ、でなきゃ、あんなに都合よく急に気を失ったりしないよね。
話を聞いた感じだと、私が見たのとほぼ同じことをキャサリンさんも感じてたみたい。
話してるうちにいきなりおかしくなった。
どんな術式でなら、そんなことになるんだろう。