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「ありがとうございます。」
私が頷いたことにカイザーさんがお礼を言ってくれる。
いいえ。そんなとんでもない。
もしかしたら、私狙いかもしれないわけだし。
私を理由にすれば、ご近所に説明するのにすごくわかりやすいんですから。
「いえ。そんな。この方が説明しても信じてもらえそうですし。クルビスさんが飛び込んできたことだって。」
「「飛び込んできた?」」
私の発言にキィさんとフェラリーデさんが反応する。
え。何か変なこと言ったっけ。
「知らせをもらって、駆け付けたんだ。その、少し。」
「急いだんですね。」
「迎えに行ったのは知ってたけどなあ。」
クルビスさんが説明するのに、フェラリーデさんとキィさんが苦笑する。
きっと、簡単にその時の様子が想像できたんだろう。
「なら、あの少年も料理教室の問い合わせに来たことにしましょうか。」
「ああ。無理に押しかけてきたって?」
「…それなら、他の地区の者が来たことも説明出来るな。」
「クルビスが駆け込んで来たことも、その後、一緒に守備隊に移動したことも、それで説明出来るでしょう。」
フェラリーデさんの提案にキィさんとクルビスさんが話をすり合わせていく。
そうだ。クルビスさんが慌てて転移局に来たのって、ご近所にばっちり目撃されてるんだっけ。
その説明も必要だったなあ。
私に何かあったんでなければ、冷静なクルビスさんが慌てるなんておかしいし。
そうでなければ、何か事件がありましたって言ってるようなものだし。
早めに表向きの理由を広めておかないと。
「では、ハルカさんの料理教室に参加したい少年が転移局に客のふりをしてやってきて、そこでもめて、知らせを受けたクルビスが駆け込んできた。そして、そのまま守備隊に連れて行った。と、いうことでよろしいでしょうか?」
「それに魔素が興奮で少し揺れていたというのも付け加えよう。箱の魔素を感じていた者もいるだろうから。俺に追い返されて、切羽詰っていたとすれば、おかしな話でもない。」
フェラリーデさんがまとめた話に、クルビスさんが追加をする。
そうだ。あの箱、あれも見られてるんだよね。
キャサリンさんの悲鳴が聞かれてるかもしれないし、デリアさんの動揺も見られてるかもしれない。
2人は今頃、頑張って誤魔化してくれてるだろうけど、あんな気持ち悪い箱なら変に思う人だっているだろう。
「そうだなあ。ハルカさんの封印が効いてたと言っても、あれは目が利かなくてもわかるだろうしなあ。」
キィさんの言葉に皆うなずく。
たしかに、術士でなくてもわかっちゃうだろう。あれは本当に気持ち悪かったから。
「では、追い詰められて魔素が不安定だったという話も加えましょう。それでよろしいでしょうか?カイザー局長。」
「はい。ありがとうございます。」
何とか表向きの理由は整ったみたい。
後は上手くウワサを流せるかだなあ。