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「そうだよなあ。あの時は多かった。防ぐことも出来なくて。俺らの力が足りなくて申し訳ないことをしました。」
「本当に申し訳ありませんでした。」
沈鬱な様子で胸に手を当てるキィさんとクルビスさん。
50年前と言ったら、二人とも隊士になっていた頃だっけ。
たしか、キィさんはもう隊長さんだったはずだ。
2人とも責任感じてるんだろうなあ。
「いいえ。どうか手を下して下さい。あの時だって、隊士の皆さまは精一杯街を守って下さってました。今でも、皆さんが外の街を探して下さっていることは皆が知ってます。」
カイザーさんが慌てて2人を宥める。
魔素も暗い感じはしないし揺れてもいないから、カイザーさんには隊士さんを責める気持ちは本当にないみたいだ。
「あの青年があの時の子供だとしたら、なんて、私の突拍子もない思い付きにも皆さんすぐに反応して下さいました。忘れられてないだけで、私は十分だと思います。」
少し悲しげな魔素を含みながらも、穏やかな魔素をまとって話すカイザーさん。
悲しみの魔素が混じるということは、カイザーさんの知り合いや親せきにも被害者がいたのかもしれない。
それでも、穏やかに話すのは、隊士さん達のことをきちんと見てくれていたからだろう。
今でも探してるっていうのは驚いたけど、クルビスさん達の魔素は揺れなかったから本当のことみたいだ。
寿命の長い世界でも、50年って長い時間だ。
捜す人にとっても待っている人にとっても、辛い時間だったろうな。
「そんな風に言って頂けるこちらの方こそ、ありがたいですよ。」
「まったくです。」
キィさんとクルビスさんもカイザーさんの言葉と魔素を受けて、ようやく胸にあてていた手を下す。
室内の空気が穏やかになったところで、ノックが響いた。
「伝えてきました。今、北に残ってる記録もキーファ達と調べてもらってます。」
手に持ったポットとカップを乗せたお盆を持ってフェラリーデさんが入ってくる。
ああ。嬉しい。緊迫した空気が続いて、喉が渇いてたんだよね。
「ありがとう。リード。立て続けで申し訳ないが、情報の整理と周囲への知らせ方について決めておきたいんだが、いいだろうか?」
「ええ。お待たせしてしまって申し訳ありません。カイザー局長。ハルカさん。」
クルビスさんの問いかけに、快く頷いてくれるフェラリーデさん。
働き詰めでお疲れだろうに、微塵も感じさせないのはさすがだ。
「いいえ。お疲れ様です。リード隊長。」
「お疲れ様です。あ。私がお茶を淹れますから。座っててください。」
話合いが始まる前にと、お茶係に立候補する。
ここは、ずっと座ってて、クルビスさんのおまけでしかない私が雑用をするべき場面だろう。
「いえ。そんな。」
「まあまあ。いいからいいから。座ってて下さい。」
横からお盆ごと茶器を引き寄せ、慣れた異世界ポットをカップの上に設置してお茶を淹れていく。
そんな私の様子に苦笑してフェラリーデさんは任せてくれた。
あ。ポム茶だ。疲れてる時に良いお茶だ。
そうだよね。キィさんだってフェラリーデさんだってお疲れのはずだ。魔素の補給が必要だろう。