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「お待たせしました。あの少年は今寝かせています。」
キーファさんが出て行って、すぐにフェラリーデさんが来た。
リリィさんは入れ違いで医務局に戻って、今は私とカイザーさん、そして隊長さん達3人だけだ。
「少年ということは…。」
「ええ。個立ち前ですね。もうすぐ個立ちでしょうけど。」
フェラリーデさんの一言にクルビスさんが驚いたように問い返す。
個立ち前ってことは、ええっ。未成年?
「おいおい。じゃあ、捜索願い出てるんじゃねえか?」
「それが、個立ち直前というのはどの地区からも出てこなくて。今ある届け出は、大きくても50歳くらいなんですよ。」
ええっと。こっちで50歳って、日本で言う10歳くらいだっけ。
それで、個立ちが100歳だから、あの青年は90代くらいで、ってああもうややこしい。
「あの。その。昔、子供があちこちで誘拐されてたことがありましたよね?その頃さらわれた子ということはないでしょうか?丁度50年くらい前のことですし。」
それまで黙っていたカイザーさんが恐る恐る話に加わる。
50年前にそんなことがあったの?その頃に50歳くらいなら、今は100歳前後。
「確かに、ありえますね。」
「その時の子供なら、年ごろも丁度合うな。」
「ええ。急いで、シードに伝えてきます。当時の資料の閲覧許可も出しておきますね。」
クルビスさんとキィさんが同意し、フェラリーデさんが急いで部屋を出ていく。
私はというと、いきなり出た50年前の情報に呆然となっていたけど、クルビスさんやキィさんの表情の険しさから未解決なんだというのはわかった。
こちらでは出産数が少ないから、子供は登録されて大事に大事に育てられる。
街全体で出産に子育てをバックアップするから、家出や誘拐になると大騒ぎになる。
それでも能力の高いシーリード族は狙われることも多いそうだから、何年かに数件は誘拐やそそのかされての家出なんかが起こるみたいだけど。
話からすると、50年くらい前には、北地区で誘拐事件が多発したみたい。そして、戻らなかった子供がいたんだ。
「カイザーさん、ありがとう。言われるまで俺もつながらなかったよ。」
「いえ。本当に思い付きなんです。あの当時、この辺りはさらわれる子供が多かったものですから、つい思い出してしまって。」
キィさんの言葉に悲しそうに答えるカイザーさんはとても辛そうだった。
私が来た時の誘拐騒ぎは西だったけど、50年前の当時は北で多く起こっていたんだ。
もしも、あの青年がその当時に誘拐された子だとしたら、何てことだろう。
50年もその子がどんな目にあっていたのかなんて、あのうつろな瞳を思い出すだけで胸が悪くなる。