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それから最近の客足のことや、嫌がらせのような中傷などはなかったかといった形式的な質問が続いたけど、これといった収穫は無かった。
そもそも、私が来てからその類の嫌がらせは一切なりをひそめていたのだそうだ。
「ハルカさんが来て下さって、本当に助かりました。」
笑顔で言うカイザーさん。それって、術士の数的な話じゃないですよね?
ええ。私、何かやったっけ?クルビスさん知ってます?
「俺の怒りを買うくらいなら、大人しくする方を選ぶだろうさ。」
ああ。クルビスさんのせいか。それなら納得。
クルビスさんが蜜月だってことで、私が近場だったカイザーさんの元で働けたくらいだし。影響力がすごいもんね。
現役の隊長さんの怒りを買うくらいなら、大人しくしてるだろう。
それじゃあ、術士のことだけじゃなくても、少しはお役に立ててたのかな。だったら嬉しい。
「知らないところでお役に立ってたんですね。」
「ええ。もちろん。術士としての腕前も一級ですし、中央本局の視察でも高評価で…。」
いやいやいや。まって。
知らないことがつらつら出てきた。高評価って何。
「え。評価とか出るんですか?」
「いいえ。公表されるわけではないんですが、報告にあった内容は局長にはそれとなく伝えられるものなんです。デリアさんが来た時にお伝えしたでしょう?」
ああ。デリアさんが来ることになった経緯ね。
「黒の単色がいても捌ききれない仕事量」ってことでデリアさんの移動が認められたんだけど、あれって色は関係なく私が高評価だったんだ。
「ええ。でも、黒の単色だから評価されたんだと思ってました。」
「まあ、頭の固いひと達はそれで判断したでしょうね。ですが、上層部の大半はハルカさんの転移陣の起動の速さや回数に注目していたそうです。そのうち中央局からも勧誘がくるかもしれませんね。」
苦笑しながらカイザーさんがギョッとする情報を追加してくれる。
中央局の勤務って、確か年数も経験も必要だったはず。そんな馬鹿な。
「中央局からだなんて、そんな、まさか。」
「ハルカさんの術士としての腕はかなり高いんですよ?全ての転移局の術士の中でも上位に入るでしょうから、勤務経験はそう問題にならないでしょう。」
えええ。やだあ。
うちの転移局を差別してるひと達が巣食う場所で勤務なんて。
それに、特別勤務期間のあの量の荷物が集まるんでしょう?
ぜったい過労で倒れる。
「落ち着け、ハルカ。カイザーさん。今のところ、中央局からはそういう話は来ていないのですか?」
私がものすごく嫌そうな顔をしたからか、クルビスさんに宥めるように背を叩かれる。
カイザーさんも私を見て慌てて首を横に振った。
「今のところは何もありませんね。ただ、ハルカさんの評価が高いのは局長クラスには伝わってるでしょうから、中央局だけでなく、他所からの勧誘も多くなるでしょう。」
あの観光案内並みの勧誘の手紙がまた来るの?
ここしばらくは大人しかったのになあ。