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「ああ、驚いた。リード、お前さんの耳がいいのは知ってっけどよ。驚くから声くらいかけろよ?」
「すみません。キィの魔素はよく耳に響くものですから。」
キィさんの文句に麗しい笑顔でフェラリーデさんが対応する。
その悪びれない様子に、よくあることなのかキィさんは自分の頭を撫でて苦笑しながら部屋に入って来た。
「はあ。ま、いいけどな。…遅れてすみません。運ばれたヘビの一族は、術式が発動しないようにしてきましたので、しばらくしたら落ち着くと思います。」
「うん。ありがと~。今ね、大体の事情を聞いてたとこだよ。付添いの子が言ってたことと同じ内容で、感情の揺れが大きくなったり収まったりしてたんだって。で、術士のキャサリンとハルカちゃんは、あの術式が発動する所が見えたらしくて、これから話を聞く所だよ~。」
メルバさんがこれまでの話の内容と、これから話すことを簡単に説明する。
その内容に頷いて、キィさんはフェラリーデさんの逆側のメルバさんの隣に座る。
これで、入口側からフェラリーデさん、メルバさん、キィさんが向かいに座ったことになって、こちらは、入口側からキャサリンさん、カイザーさん、私プラスクルビスさんの順で座っている。
こっちには上座とか下座とかはなくて、どちらかというと上の立場のひとが真ん中に座る傾向があるみたい。
と言っても、明確に規定されてるわけじゃないから絶対じゃないけれど、今回はそれに従ってメルバさんとカイザーさんが向かい合うように真ん中に座って、他のひとが左右に座ることになった。
「それじゃあ、ハルカちゃんから話を聞こうか~。黒いもやが見えたんだって?」
「はい。口論にしては様子がおかしかったので、顔見知りだったので、警護の方に呼んで頂いてお話をしました。お話してる時は普通の状態でしたが、ヘビの一族のカバズさんの左腕の、そう、この辺りにこれくらいの細長い黒いものがついているのに気がついたんです。それを見た時に嫌だなと思いました。
でも、術式だとは思わなくて、「腕のそれはなんですか?」って聞いたんです。そしたら、カバズさんには見えなかったみたいでとても驚かせてしまいました。反対側の席にいたキャサリンさんも、そのやり取りを聞いてカバズさんを見てくれて、もやもやしたものが見えるから守備隊で見てもらった方がいいとアドバイスしてくれて。」
ああ。そうだ、あれで一気に感情のバランスが崩れたんだっけ。
そしたら、カバズさんが興奮して怒鳴り散らして、腕の黒いやつがカバズさんを飲み込もうとしたんだ。
「そしたら、カバズさんが驚いた様子から、いきなり興奮して大きな声を出して、それに比例して魔素も膨れ上がりました。すると、腕の黒いもやが生き物みたいにうねって、大きく広がって、カバズさんを覆うような動きを見せました。
危ない状況だとはわかりましたが、止めることが出来なくて。そこにメルバさんが来て下さったんです。」
私が話し終えると、皆さん厳しい顔をされていた。
クルビスさんの魔素もピリピリしている。
やっぱり異常な状況だったんだろうか。
もしかして、あの術式って、相当危ないものだったとか?