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「ハルカは本当に無茶をする。だが、その判断は当りだ。中身はわからないが、俺が持ってみた感覚でも、あれは生半可な魔素じゃ太刀打ちできない代物だろう。」
ため息をつきながらクルビスさんが頭を撫でてくれる。
よ、良かった怒ってないみたい。
「そんなに危険なものがなぜ我が転移局に。」
ホッとしてる私とは対照的に、カイザーさんは危険物が転移局に持ち込まれたことに顔色を悪くしていた。
そうだ。どうしてうちの転移局なんだろう。
嫌がらせかなあ?今回のは度が過ぎているから考えにくいけど。
冷遇されてるっていっても、術士だってたまには派遣してもらえる程度には認めてもらえてるしねえ。
「可能性はいくつもありますが、今の段階では断定できません。しばらくは隊士が警備できるよう手配します。目が効く隊士を派遣しますので、今回のようなことはもうないでしょう。」
クルビスさんがお仕事モードで静かな声でカイザーさんに答える。
そうだよね。今の段階じゃ、何が原因かなんてわからない。
それより、次も狙われないように気をつけなきゃ。
でも、いくら警備がつくからって、このまま明日の営業して大丈夫かなあ。
「ありがとうございます。それと、今日のことは、ご近所にどう説明しましょう?この前のようにあえて違う話を流しますか?」
カイザーさんは別のことが気になったらしく、遠慮がちにクルビスさんに質問する。
それも問題だよね。うちはただでさえ差別されてるのに、危険物が持ち込まれたなんて、そのまま情報を流したらお客さんが減りそう。
「…そのこともありましたね。全てを公にするのは難しいでしょうから、他の隊長たちと相談してからお願いすることになると思いますので、少しお待ち頂けますか?
後で隊士を派遣する理由と合わせて、早急に他の隊長たちと意見をすり合わせてお知らせします。」
そう言われて、「早めにお願いします。」とカイザーさんも頷いた。
確かに、そのまま全部話すわけにはいかないだろう。黒幕はわかってないしね。
ただ、持ってきたのは西地区のひとみたいだし、見慣れない外見は随分目立っただろうから、あちこちから聞かれるのは確実だ。
カイザーさんが対応を早く知りたいのもよくわかる。
キャサリンさん達が心配だなあ。
忙しい時間帯なのに、ご近所さんに質問攻めにあってないと良いけど。
カツカツ
転移局の話が出て、アニスさん達心配してるだろうなと思っていると、ノックの音が聞こえる。
リリィさんかな?
「誰だ?」
「リリィです。シード副隊長も一緒です。」
「入ってくれ。」
クルビスさんが許可を出すと、リリィさんとシードさんが入ってくる。
リリィさんシードさんに知らせに行ったはずなのに、戻ってくるの早いなあ。
「シード。何かわかったか?」
クルビスさんが報告を促したので、シードさんはチラリと私たちを見た後、胸に手を当てて報告を始めた。
いいのかな。こんなことまで聞いちゃって。まあ関係者ですけどね。
「この住所を問い合わせたところ、確かに工房はあるそうです。ですが、今は誰もいないそうで。10日ほど前に慌てて荷物をまとめて出て行ったとか。その工房に体色や容姿の一致する若い男がいたそうです。」
シードさんの報告にクルビスさんが難しい顔をして考え込む。
報告を聞いてる時は驚いた素振りはなかったけど、怪しいその工房に心当たりでもあるんだろうか。