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「送り状を持ってきていただけて助かりました。」
クルビスさんがカイザーさんに向き直ってお礼を言う。
これはカイザーさんのお手柄だよね。普通ならそのまま置いて来ちゃうし。
「いいえ。気が動転していて、そのままポケットに突っ込んだだけなのです。お恥ずかしい話、ハルカさんに声をかけられるまで、全くわかりませんでしたから。」
「そういえば、ハルカはどうしてわかったんだ?」
恥ずかしそうにカイザーさんが言い、クルビスさんの横にいた私に話が向けられる。
いや。どうしてって、視界にあんな気持ち悪いものが映ったからで。あれ?でも最初は…。
「えっと。最初は気づかなかったんです。お客さんが少なくなって、おやつの時間にしてて。皆で休憩中でした。そこにあのお客さんがやってきて…。カイザーさんとやり取りしてる間は荷物がおかしいとは思いませんでした。今思うと変なんですけど。」
そう。転移局のカウンターは荷物が載せやすいように低めの設計だ。
例の荷物もカウンターの上に置かれて、おやつ食べながらちら見してたけど、不審な点は無かった。
ただの木箱だったんだよね。
それで、私はお客さんかあって思っただけで。
「それで、休憩中でしたけど、他のお客さんが来るかもしれないので、カウンターの様子は気にしてたんです。なのに、送り状を書いてカイザーさんが荷物を受け取ろうとした時には、荷物はさっきみたいな気持ち悪いものになってて、慌てて止めました。」
何でいきなりあんな風になったんだろう。
それも術式だって言われれば納得するしかないんだけど。
「ハルカはあの荷物が何かわかったのか?」
「いいえ。でも危険なものだと思いました。勘ですけど、カイザーさんがこのまま触ったら大変なことになるって思って、それで慌てて私が受け取ったんです。」
いや、もう。あの時は無我夢中でした。
でも実際に危険なものだったし、私は何ともなかったんだから、あの時の判断は正しかったんだよね。
「…危険だとわかって触ったのか?」
ひ。何か部屋の温度が下がったような。
ううう。隣のクルビスさんの顔が見れません。
ここは正直に言おう。
勘が当ったのは本当だし。
「か、勘で。このまま置いておけないと思ったんです。私は大丈夫だろうって思いましたし、カイザーさんや他の職員から早く引き離さなきゃって思って。私の大声を聞いて駆けつけてくれた隊士さんにも触らせられないと思いました。」
何とか言いきって、そろっと顔を上げる。
すると、そこには呆れたような顔をしたクルビスさんがいた。