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催淫の術っていうのは、名前だけだとやらしいけど、その実、強い催眠術の総称らしい。
私は以前、黄の一族の長の叔父にあたるクレイさんにかけられたことがあって、その時この術のことをすこし教わった。
出来るひとが滅多にいないから、もうお目にかからないだろうと思って聞き流してたけど、しまったなあ。
2回も遭遇するとなると、後でまたってことがありそう。今度クルビスさんに対応策とか詳しく聞いておいた方がいいかも。
そもそも催淫っていう字を当てるようになったのは、もともとの目的が「そういう行為」のためのものだったからだ。
相手の意志じゃなく、術で身体を気持ち良くさせるために開発されたのが発端だそうで。
開発したのは黄の一族。
それが進んで、相手の自由を束縛するまでになったらしい。
適性がなければ使いこなすのは難しいらしいけど、適正が高ければ相手を言いなりにすることも自由自在だとか。
クレイさんは非常に適性が高くて、街の子供たちを攫おうとしてたらしいし、怖いことだと思う。
そんな風に使い手によっては非常に危険なため、能力持ちの登録が定められている。
ただ、危険だからと言う割には義務とかでなく、登録は自己申告制なせいか、登録漏れが結構あるんじゃないかって、最近になって言われてきている。
これは潔すぎるシーリード族の欠点が出た結果だ。
彼らは基本的に自分を偽るということを考えないから。だからつけこまれる。
クレイさんが良い例だ。
彼は自分の能力を長い間隠し通した。
黄の一族は適性者が多いから、魔素でウソついてないかどうかを見ながら一族全員しっかりチェックされるらしいのに。
特に最初に街に移ってきた世代は、過去の所業もあってメルバさんと長老さん達がかなり厳しくチェックしたんだそうだ。
言葉と魔素でゆさぶりをかけるとか言ってたけど、こっちの世界では真偽を確かめるのにかなり有効な手段なのだそうだ。
普通ならこの方法を取れば、どんなにウソをついても魔素でバレるはずなのに、クレイさんは魔素でも周囲を欺いた。
親兄弟にも隠し通したっていうからすごいよね。
まあ、お兄さんのグレゴリーさんはうすうす気づいていたみたいだけど。
クレイさんほど自分を偽る人はどの一族でもいないらしいけど、やろうと思えばできることが証明されてしまって、一部では結構な騒ぎになってるそうだ。
まあ、催淫の術はかかるまでに時間がかかるという欠点がある上に、相手の魔素が安定していて強ければほとんどかからないものだから、使えるかどうかだけわかってればいいって考えが油断になったんだよね。
私も何度かクレイさんにかけられそうになったけど、結局、ほとんどかからなかったしね。
だから、催淫の術の話は聞き流してしまっていた。反省。
だからなのか、危険なはずなのに、一般的の認識では催淫の術はレア度は高いものの危険度が低い術式となっている。
でも、目の前に自由意志がまったくない人がいると、その認識は改める必要があるって思い知らされる。
「う~ん。誰がかけたかは置いといて、ちょっと魔素を高めてみっか。」
「皆さん離れて下さい。キィ。カイザーさんとハルカさんは上に避難して頂いた方が。」
「おお。そうだなあ。あの箱の影響も受けてないみたいだし、上に行ってもらっても大丈夫だろ。」
ああ。だから地下だったんだ。今更だけど気づいた。
私とルシン君の訓練の時も地下だったもんね。
強力な防御の術式が施されていて、隊士さん達が訓練で魔素を膨れ上がらせても、物理的に暴れてもビクともしない設計になっている。
ここなら、何かあっても周りに迷惑かけないし隊士さん達が全力で抑え込める。
私とカイザーさんも連れてこられたのは、箱の影響あった場合にすぐに治療出来るのと、事情聴取の一石二鳥ってとこかな。
まあ、お役御免なら避難させてもらっておこう。危なそうだし。