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「ハルカさん。本当に大丈夫ですか?」
デリアさんも何か感じ取ったのか見えたのか、視線は荷物に釘付けなまま心配してくれる。
体色でわからないけど、きっと顔色も悪いだろう。
多分、術士って言われるひと達は皆わかるはずだ。
カイザーさんだって、今は私の持ってる荷物を気味悪そうに見ている。
「ええ。たぶん、これは私以外が持つと危険だと思います。カイザーさん。私が守備隊に運ぶので、誰かがこれに触らないように周りに気をつけてもらえませんか?」
「はい。それはもちろん。申し訳ありませんが、運んでいただけますか?それは私では手におえないでしょう。ですが、こちらから行くより、守備隊から術士部隊の方に来ていただいた方がいいのではないでしょうか?」
カイザーさんは申し訳なさそうに頷いてくれたけど、術士部隊の隊士さんを呼ぶことを提案してくる。
まあ、普通なら危険物は触らずが鉄則だ。
でも、これはここに置いておけない。
そう私の危機察知警報が告げている。
「いいえ。これはここには置いておけません。もうすぐ夕方の仕込みの材料を取りにいらっしゃる時間ですし。」
ちらりと時計を見て言えば、カイザーさんがハッとしたように時計を見る。
夕方の手前になると、夜に店を開けるところが仕込みの材料を受け取りにくる。
この不気味な荷物を隠したとしても、広くない転移局内でどんな影響があるかわからない。
万一、そのごった返した店内に、また操られた人が送り込まれたら…。
「そうですね。それなら、すぐに出ましょう。私が横に付き添います。」
「お願いします。」
「キャサリンさんとデリアさんはこのまま通常の営業を続けて下さい。終業時間になっても戻ってこなければ、そのまま先に帰ってかまいませんから。」
「はいぃ。お気をつけてぇ。」
「了解しました。お気をつけて。」
心配そうなキャサリンさんとデリアさんに見送られつつ、待ってくれていた隊士さんと一緒に守備隊に向かうことになった。
隊士さんのうち1人は先に守備隊に連絡しに走ってくれていて、今いるのは取り押さえてる1人だけだ。
この隊士さんにも先に行ってもらおうかと思ったけど、何があるかわからないから隊士さんが一緒の方がいいということになった。
例の目の死んでるひとは相変わらず、どこを見てるのかわからない瞳でうつろな表情だ。
爬虫類な方々の表情なんてわからないと思っていたのに、この人の顔を見た後なら、どんな人だって表情豊かに見えると思う。
それくらい、目に光がなく、顔に生気が感じられなかった。まさに人形って感じ。
ええっとズボンはいてるから男性みたいだけど、小柄で可愛い顔をしてるからかパッと見にはわからないなあ。
まあるい頭におっきな尻尾だからヘビの一族みたいだけど、それにしても小柄だなあ。
私より少し低いくらいだから、165くらい。もしかして、成人してないのかも。
今は隊士さんに腕と腰ひもをつかんで暴れないように固定されてるけど、ちゃんとした意識はないみたいだしたぶん暴れたりはしないと思う。
パッと見、具合の悪い人を支えて歩いてるようにしか見えないだろうから、特に不審には思われないだろう。
そして、話も決まって、さあ出発だと言う時に、聞きなれた声が飛び込んで来る。
「ハルカっ!」
ああ。良かった。来てくれた。
出会った時は驚くばかりだったその姿に、今ではこんなに安心する。
「クルビスさん。」
クルビスさんが来てくれた。
もう大丈夫だ。