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お菓子作りの日取りも決まって、疲れただろうからと部屋に戻ることになった。
今日思い付いたことなので、候補はあっても何を作るかはまだ具体的に決めてないけどね。
ルドさんには早い目に材料を教えて欲しいと言われたので、クルビスさんに運ばれながらも頭ではレシピを考えている。
きな粉や餡を作るときにもいろいろ揃えてもらったし、明日にはレシピを決定していた方がいいだろう。
「ハルカ?着いたぞ?」
え?あ。もう部屋なの?
いつもながらクルビスさん早いなあ。
レシピ何て抹茶アイスくらいしか思い付いてないし。
後は、抹茶ロールに抹茶プリンに抹茶大福…。
「ハルカ?」
ひう。
外で囁くのは禁止です!
「もう部屋だ。」
う。み、耳元もだめです。
髪にキスしても誤魔化されません。
「話をしたい。レシピを考えるのは後にしてもらっていいか?」
真面目な声にハッとなる。
たしかに、クルビスさんには聞かないといけないことがある。
でも、さっきのキスいらないよね?
やりたいからやっただけでしょう。
「まあ、いいじゃないか。」
私はよくありませんけど。
もう。しょうがないか。蜜月だし。
イスに座ると、向かい合う形でクルビスさんも座る。
きっと例の夢の話だと思うけど、何か進展があったんだろうか。
「例の夢だが、新しいものが見えるようになった。」
「新しいもの。ですか?」
「ああ。ハルカがたくさんの調理器具に囲まれた場所で倒れるというのは、前に言っただろう?その傍に淡い紫の女性が立っているんだ。犯人というわけではないみたいなんだが…。」
淡い紫。シェリスさん?
クルビスさんに言われてすぐに思い浮かんだのは、最近知り合いになったカフェの女店主のシェリスさんだ。
壊れた調理器具を買わされてしまったことがあったから、調理器具とシェリスさんは連想しやすい。
お金が用意できたから、今度こそちゃんとした新しい調理器具を見に行くって言ってたっけ。
カイザーさんが紹介したんだよね。
そこなら色でお客を差別しないって太鼓判を押してた。
そのことをクルビスさんに言うと、難しい顔をして考え込んでしまった。
連想はしたけど、別に私はシェリスさんと一緒に調理器具を見に行くわけじゃないし、結論づけるのは早いんじゃないかなあ。
「だが、すぐ傍にいたし、知り合いの可能性の方が高いんだ。」
「傍ってどれくらいの?」
「後ろの方だな。この辺りだ。」
そう言ってクルビスさんが示したのは、自分の斜め後ろだった。
知らない人との距離じゃあない。なら、やっぱりシェリスさんかも。