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「おかえりなさい。」
転移すると美しい笑みのフェラリーデさんが出迎えてくれる。
忙しい隊長さんなのに毎回申し訳ないと思いつつも「医務局が一番近いですから。」と快く転移陣の起動をしてくれることに感謝している。
「ただいま。リード。」
「ただいま戻りました。」
「…何かあったのでしょうか?」
ぎく。
さっきまでルシェリードさんと話してたから顔が強張ってるかも。
「いや。おじい様と会ってな。次の休みにハルカと泊まりで行くことになったんだ。」
苦笑して答えるクルビスさんにフェラリーデさんは「そうでしたか。」と納得したようで笑顔に戻る。
良かった。どうにか誤魔化せたみたい。
「メラ様が籠られたとキィが言ってましたので、きっと外に出すためですね。」
ああ。メラさんのことを聞いてたから納得したんだ。
ということは、メラさんの籠り癖は結構有名な話なんだなあ。
「ああ。本当はドラゴンの一族の調理師に会いに行くんだが、ついでに俺たちをだしにしておびき出すらしい。」
「はは。それはそれは。調理師というと、例のイシュリナ様が代わられた?」
「参加出来なかったことを気に病んでいるらしくて、おばあ様から会ってやって欲しいと言われてな。」
「今度のお休みに会いに行くことになったんです。」
「成る程。長がルシェリード様に相談すると言ってましたから、それででしょうね。ずいぶん落ち込んでいたようですが、ハルカさんに会えば 落ち着くでしょう。よろしくお願いしますね。」
詳しい事情を説明すると、フェラリーデさんの顔に苦笑が浮かぶ。
どうやらメラさんのことだけでなく、例の調理師さんのことも聞いていたみたい。
まあ、異種族婚の妊娠についてはメルバさんの管轄だし、フェラリーデさんも気になる患者さんの症例くらいは聞いてるよね。
異種族婚で子供をなそうとすると、術式で両親どちらか片方の、もしくはその親の種族になるように術式で調整しないといけない。
私も式の後に術式を受けたけど、子供が出来てもその後の経過が上手くいかない例もあるそうで、こまめに検診をして無事に育つように見守る必要があるのだそうだ。
その検診や治療は繊細なもので、施せる治療術士さんは少ないらしい。
だから、妊婦さん達は育児休暇の期間、中央の施設に集められるというわけ。
フェラリーデさんはその数少ない治療術士さんで、中央に行く前の妊婦さんや出産を終えて帰ってきた母子を見る役割もあって北地区にいるひとだ。
そのフェラリーデさんの耳に入るくらいだから、例の調理師さんはかなり落ち込んだみたい。
私に会うだけでどれくらい慰めになるかわからないけど、これからも料理教室はあるのだし、元気を出してもらいたいものだ。
そうだ。せっかくだし、水菓子を持っていって試食してもらおうかな?