15
試食が終ると、皆さん張り切って自分の調理場に戻った。
味も知って作りかたも見たからか、すごくやる気だ。
「少しくらい煮すぎても大丈夫ですよ。硬さが残らないようにして下さい。」
声をかけながら周りを見ていく。
その途中でレシピの説明を求められたりすると、詳しく説明をしていく。
果汁や果肉を混ぜてもいいと書いておいた部分について聞かれたので、他には卵なども使いますよと答えると目をむかれた。
「こちらの果物で試したことが無いので、是非相性のいい果物を探してみて下さい。」と伝えると目を輝かせて頷かれる。
菓子好きのひとにはやはり甘みが少ないのではという意見には、ゼリーに甘みを加えたり蜜をあわせたりして、調整する方法を詳しく教える。
砂糖の扱いに慣れるまでは増やさないように再三注意したのは1人や2人じゃなくて、これは砂糖の講習も見直しが必要かもしれないとメモを取る。
後は、餡の感触に戸惑って弱々しくかき混ぜてるひとに、大きくかき混ぜても大丈夫だと伝えると、魔素が飛びませんかと聞かれて困ったりもした。
「お砂糖が入っているので、多少豆の魔素が飛んでも問題ありません。時間がたってもあまり魔素が飛びませんし。」と答えると、お砂糖の効果にまた驚かれる。
そうやって、ひとりひとり混ぜ方や餡の照り具合まで見て回っていたら、あっという間に餡が完成していた。
皆さんプロだから、つぶしたり濾したりという基本の作業がすごく早かったんだよね。
そういえば、ルドさんと最初に作った時も粒あんもこし餡もあっと言う間に出来たっけ。
こっちは寿命が長い分、修業期間も長いらしいから基本がしっかりしてるのかもしれない。
「では、丸めた餡を包んでみましょう。もうゼリーは固まってるはずですから。」
さっさと餡子玉を作り始める参加者さん達を見て、慌てて次の指示を出す。
勝手に作ってもらってもいいんだけど、包み方や細かい所を聞きたいひともいるだろうからと、作業をある程度は区切っている。
これからまだ修行中のひとや素人さんにも教えることになるだろうからと、最初に区切りは決めておいた。
これもウジャータさんのアドバイスだ。
おかげで、皆が一定のレベルで作業を勧められている。
この中ではイシュリナさんが調理師としては階級が下になるけど、問題ないようだ。
「あら。綺麗に包むのって案外難しいのね。ハルカさんみたいに綺麗にならせないわ。」
「ああ、余分なゼリーは切ってしまって、端は薄く延ばすようにしてみて下さい。そうすると段になりません。」
「ゼリーを伸ばすの?ふふ。面白いわね。」
少し躓いたものの、楽しそうに水菓子を作っている。
他の皆さんも子供みたいな顔をしてゼリーを丸めるという作業に没頭していて、明るい空気にホッとする。
「出来た!」
「出来ました!」
「私も!」
次々にあがる完成の声に笑みがこぼれる。
初めてで上手くいかないこともあったけど、楽しんでもらえたなら上出来だ。
楽しかったらまた作ってもらえる。
帰ってからも作ってもらわないとこのレシピの意味がないから、堅苦しいものにはしたくなかった。
「まあまあ。さすが皆さんお上手ですわ。ねえ。ハルカさん。」
「ええ。素晴らしいです。」
「ふふ。とっても楽しかったわ。あら、もうすぐ時間ね。片付けて終わるかしら?」
イシュリナさんの言葉であと10数分くらいだと知り、慌てて片づけを始める。
持ち帰り用の容器を配った時に何故か感謝されたけど、時間までにはきっちり終わった。
「「「ありがとうございました。」」」
餡の詰まった容器とレシピ帳を大事そうに抱える参加者の皆さんを教室のドアの所で見送る。
外まで見送ってたら騒ぎになるから、私たちは教室から出ないことになっているので、ここでお別れだ。
「こちらこそ、参加して下さってありがとうございました。帰ってからも是非作ってみてください。」
「「「もちろんです。」」」
力強い言葉を返してもらって、手を振って別れる。
ふう。最初の一歩終了だ。