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「塩で甘さが…。」
誰かがポツリとつぶやく。
目を離せないので見てないけど、たぶん最初に挨拶してくれたピッケさんだろう。
ルドさん達も驚いてたし、今までなかった発想なんだろうなあ。
私も最初知った時は驚いたもんね。
最初に考えついた人ってきっと天才だったんだと思う。
それがちゃんと伝わったから和菓子があるんだよね。
今のルシェモモみたいに秘密にしてたら無くなってただろうな。
「冷めたら丸めて冷やしておいたゼリーで包みます。これで水菓子の完成です。」
火からおろした鍋を見せながら、残りの手順を説明する。
冷めるまで時間がかかるから、その間は質問タイムにする予定だ。
ちなみに、私が作ったのは紫の餡。
ピンクの餡はウジャータさんが手伝ってくれた。
同じ手順なのに、時間をかけるわけにはいかないからね。
でも、食べ比べはして欲しかったから、2種類は用意した。
「ここまでで何か質問はありますか?」
私が聞くと、我先にと調理師さん達が話し始める。
豆の茹で加減から、砂糖の加え方までそれはもう細かく聞かれた。
正直、お砂糖を「全体にふりかけるように」入れたって、「一か所にまとめて」入れたって、混ぜ合わせるわけだからそこまで変わらないんだけどなあ。
量が多い場合は数回に分ける必要はあるけど、それくらいだ。
もしかしたら、プロの職人さんに聞けばまた違った答えも出てくるだろうけど、素人の家庭料理じゃねえ。
砂糖の入れ方は個人の好みでお願いして、それよりしっかりかき混ぜ続けることが必要だと伝えることにした。
何にしても焦げたら意味がないからね。
残ってた茹でた豆ももう冷めてるから指でつぶしてもらって硬さを確認してもらったりして、質問に答えるだけで結構な時間がかかった。
「ああ、もう冷めてきましたね。では、丸めていきましょうか。手で丸めていきます。」
綺麗に洗った手で餡子を丸め始める。
冷めた餡は綺麗に丸まってくれて、私の手の平より小さいくらいの餡子玉が幾つもできる。
デモンストレーションで作ったゼリーの皮は2つだけど、一応参加者の数だけ用意してある。
それでも余るから、残しておいて私も持って帰ろうかな。
餡を作るにはある程度の量があった方が作りやすいけど、使うとなると意外と大変なんだよね。
そのつもりで、今回は容器を用意してもらってある。
魔素を保存するための容器じゃないけどね。
そんなのに入れなくても魔素はほとんど逃げないから、餡子の有用性を示すためにも普通の容器に入れたまま持って返ってもらうことになっている。
さて、冷蔵庫のゼリーに包んで底を撫でつけてっと。
よし。完成だ。
「これが水菓子ですか…。」
「たしかに、水を菓子にしたようなスイーツですね。」
完成した水菓子に皆さん食いつかんばかりに凝視している。
ちょっと怖いなあ。後で作ってもらうんだけど、先に試食してもらおうか。