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「全体に塊がみえないくらいまでつぶしたら、さらに濾し器を使って滑らかにしていきます。豆の皮が邪魔になりますので、取り除いてください。こし餡に皮は使いません。」
スプーンで大体つぶした後で、濾し器を使ってさらに滑らかにしていく。
豆の皮が結構大きいから、濾し器にたまってくる皮が邪魔になるから、それを取り除くことも忘れずに。
事前に取り除いておいてもいいんだけどね。それは個人にまかせよう。
こういうのって細かいことだけど、いちいち言わないと人によっては皮もすり潰そうとするらしい。
『素材は出来る限り失わないように』というのが調理師の心構えらしいから。
最近になって、食感や味を優先して一部は捨てるものという風に変わってきたみたいだけど、まだまだ根強い考え方だから注意が必要だってルドさんが言っていた。
「1度で上手くいかなかったら、もう1度濾してください。これくらいになれば大丈夫です。次はこの濾した餡を鍋に入れ、お砂糖を入れるのですが、ここで注意点があります。お砂糖はとても焦げやすいもので、かきまぜ続けないとすぐに焦げてしまいます。それを見てもらうために、お砂糖を少し焦がしたソースを今から作るので良く見ておいてください。」
そういって、フライパンにお砂糖と水を入れて火にかける。
皆さん、ギョッとした顔でフライパンを凝視する。
お砂糖と水だけのソースなんて聞いたことないだろうしね。
少し待つとふつふつと沸騰してくる。
お砂糖が溶けてき始めると、後はすぐだ。
良く見ておくよう注意を促し、大きくフライパンをゆすり、水を注ぐ。
「「「おおー!」」」
大きな音と派手な見た目に歓声が上がる。
でも、プリンに合うソースだと説明した途端、皆さんの目がギラリとした狩人のような鋭いものに変わる。
「プリンにソースを…。」
「蜜はあまり合わないものだが、これ程クセのあるソースならいっそ新しい味になって…。」
「これならプリンは薄味でも構わないのでは?」
自分の作れるプリンと味を比較して、真剣な議論が交わされる。
お砂糖が焦げやすいってデモンストレーションだったのに、別の方向に話が行きはじめてしまった。
「まあまあ、皆さん。これは、お砂糖が焦げやすいというお話ですわ。ねえ?ハルカさん。」
「はい。このソースのこともレシピ帳に乗ってますから、プリンとの組み合わせ方はまた後日ということに。」
見かねたウジャータさんが間に入ってくれ、私も後でも出来ることだとフォローをいれる。
ああ。危ない危ない。お砂糖が焦げやすいっていうのは印象づけられたけど、印象が強すぎたみたいだ。
これなら、最初のウジャータさんの説明の後にやった方が良かったかなあ。
うーん。後でウジャータさんにも聞いて、午後からの講義では変えてみようかな。