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豆を取り出して、スプーンでつぶしていく。
それを見てた周りが軽くざわついた。
「あの。」
「はい?」
「煮汁はまったく使わないんですか?」
「煮汁は捨てます。クセが強いので。このクセを抜かないとスイーツには向きません。」
私が混乱しないように日本と同じやり方にしただけだけど、ここはあえてきっぱり答える。
私の答えに、参加者さん達は目を見開いて、そしてそういうものかと納得したように頷いていた。
一応、ルドさんに確認したけど、この世界でも未熟豆を単体で味わう場合には煮汁はたいてい捨てるものらしい。
ただ、この未熟豆を単体で味わう料理となると深緑の森の一族のレシピに多く、問題のレシピ制限の関係で意外と知られてないのだそうだ。
ルシェモモでの一般的な豆の使用方法としては、成熟豆を水で戻して、スープなんかに使われることが多い。
このことも未熟豆の調理法が周知されていないことに関係しているんじゃないかな。
どこかで深緑の森の一族のレシピと被ると言われるかもしれないけど、その時は故郷ではこの方法で調理しましたと答えようと思ってる。
遠い辺境のことだし、誰も確かめようがないから大丈夫だろう。
「『餡』にはある程度つぶして少し粒が残るくらいの『粒あん』と、もっとつぶして滑らかにした『こし餡』とありますが、守備隊で試食してもらったところ粒の食感が苦手な方が多いようでしたので、皆さんには『こし餡』の作り方をお伝えすることにしました。」
「その『粒あん』というのは教えていただけないのですか?」
私の説明に質問が飛び出す。
可能な限りレシピは知っておきたいんだろう。
「粒あんのレシピも後の方で公開する予定です。ただ、食感に好き嫌いがわかれるので、先に評判の良かったこし餡のレシピから広めてもらおうと思っています。」
私の答えにホッとしたような空気になる。
後で公開されるならその時でいいと思ってもらえたようだ。
粒あんのレシピは食感があまりウケなかったから、どうしようか悩んだんだけどね。
ルドさんの勧めで公開レシピの中に入れることになった。
こし餡を広めればどこかで誰かが粒あんをアレンジして「オリジナルだ!」と言い始める可能性は十分にある。
そうなると、アレンジ部分は現状のレシピの扱いのままなので、せっかくの私のレシピが死蔵されることになってしまう。
それはあまりにもったいないので、先に2種類あることを伝えてこし餡から教えていけば混乱も避けられるだろうとアドバイスをもらった。
クルビスさんもその方がいいって言ってくれたしね。