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「それでは、皆さんにも同じようにして頂きたいと思います。ゼリーは冷えて固まるまで時間がかかりますから、先に冷やしてから中身の実演に移りたいと思います。ゼリーはこちらのものをどうぞ。ひとり2つは作って下さい。」
私の言葉にゼリーを受け取ってそれぞれの調理台に戻る参加者さん達。
その目はキラキラしてて、子供みたいだ。
皆さんの様子を見ながら、調理台の火にかけてある片手鍋を覗き込む。
私が挨拶する前からウジャータさんが用意してくれていたトラット豆だ。
スプーンを突き刺すと少し芯が残ってる感じだった。
もうちょっとかな。
トラットって結構軽い豆で、沸騰するとお湯の流れで舞ってくれて、焦げ付かないから放っておけるのが楽ちんだよね。
守備隊で使われてたのも、これが理由のひとつだろう。
「ふふふ。楽しそうね。じゃあ、私もつくろうかしら。このゼリーをこれくらいね?」
イシュリナさんは私の隣で作ることになっていた。
きっとウジャータさんの配慮なんだろう。
普段から料理をされているから、イシュリナさんの手つきはとてもいい。
すぐにゼリーの用意を済ませてしまった。
「面白いわねえ。重ねるだけで型になるんですものねえ。」
「ルドさんのおかげなんです。私が包むから丸い膜状にしたいから、丸くて重ねられるものはないか探してもらいました。」
イシュリナさんに答えつつも、豆に火が通ったか確認するのは忘れない。
柔らかくなりすぎても構わないけど、硬いままだと困るからね。うん。スプーンで割れる。おっけー。
「まあまあ。息子は目的がハッキリしてたから思い付けたと言ってましたわよ。結果が先にあって、方法が後からついて来た良い例ですわね。あらあら。皆さん、上手くできたみたいですわね。」
イシュリナさんとも話してるうちに、他の参加者さん達も作業を終わらせていた。
さすがにプロの集まりだけあって、こんな単純作業はすぐに終わってしまったらしい。
一応見せてもらって、問題は無さそうだったので名前を書いた紙と一緒に冷蔵庫にしまってもらう。
さて、次は餡子作りだ。
「では、ゼリーをしまったら、また集まってもらえますか?今度は中身の『餡』を作りたいと思います。使う豆は先程ウジャータ様から解説があった「トラット」の未熟な豆を使用します。使うのはこのピンクと紫の豆です。
こちらは水で戻す必要はなく、そのまま鍋に水と入れて柔らかくなるまで煮ます。最初は色が出て来ますが、その煮汁は捨てて、水をかえて1時程煮ます。今回は先に煮ておいたこちらを使います。」
圧力鍋があったらもっと簡単に出来るんだけど、それは言っても仕方ない。
昔ながらの餡子作りになったけど、こっちの豆は少し煮たくらいでお芋のような食感になるため、餡に加工しやすいので助かる。小豆はもっと手間がかかるもんね。