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さて、お砂糖を使ったスイーツの味も知ってもらったところで、本題に入ろう。
クルビスさんと手分けして、レシピ帳を一冊ずつ配る。
最初は付き添ってもらうだけだったんだけど、元来働き者のクルビスさんには何もしないでいるのは耐えがたいらしくて、「何か手伝わせて欲しい。」と言われた。
私も何もしないよりは落ち着くだろうと思ってお願いしている。
「では、これからレシピの通りに作っていきます。まずはゼリーですね。こちらにどうぞ。」
私の調理台に場所を移して、前の晩から戻したゼリーを調理台の下に備え付けられた冷蔵庫から取り出す。
結構重いのでクルビスさんが出してくれた。
「まず、外側の部分を作ります。一番小さいボールとその次に大きいボールを使うのですが、2番目に小さいボールの底に3cmくらいまで入れます。その上に重りや水を入れた一番小さいボールを重ねて、ボールの底の形に薄く延ばします。この状態で1時から2時冷やしておきます。」
ボールに入れたゼリーを見せながら、外側の部分を作っていく。
今回は教えるのが目的なので、一つ一つ丁寧に動作を見せながらレシピ通りにやっていくことにした。
レシピ通りだとわかったからか、メモは取らずに調理師さんたちが食い入るように見つめてくる。
ちょっとやりづらいけど、こればっかりは仕方ない。
守備隊の調理師さんたちと作ってた時もこうだったしね。
あの時はレシピ帳も無かったのに、皆さん分量も正確に覚えててびっくりしたなあ。
「そんなものが型に。」
「ええ。専用の型も作ろうかと思ったのですが、故郷でも特別な道具はほとんど使わなかったのでやめました。これならすぐに試していただけますし。」
調理師さん達は、ボールを重ね合わせることで丸い膜状のものが出来上がるというのに驚いている。
専用の型を作るほど複雑な作業じゃないし、何よりこっちの方が誰でもすぐに作れると思って、結局元の作り方のままにしたけど、反応は悪くないようだ。
何事も工夫次第というのはどんな料理でも共通だ。
皆さん目を輝かせて、ボールを見つめている。
この様子なら、きっと帰ってすぐに作ってもらえるだろう。
厚みは好みで変えられるから、きっといろいろ試してもらえるだろうな。
「注意点は重しを入れ過ぎないこと。ゼリーの厚みにばらつきが出るので、中に餡を入れて包むときに破れてしまいます。冷蔵庫で冷やす時も上に乗ったボールがズレないように気を付けて下さい。」
ゼリーは葛みたいな弾力のある少し硬いものだから、厚みに差があり過ぎるとそこから割れてきちゃうんだよね。
それに、冷やす前は柔らかいからすぐに型崩れするし。
皆さんゼリーは馴染みの深い食材だからか、納得した顔で頷いてくれた。
さて、じゃあ、次は実践だ。ゼリーが冷えて固まるまで時間がかかるからね。