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沢山の食材を順番に説明してもらって、持って来たノートに必死にメモるうちにチラホラと今日の受講者がやってきた。
受講者の方は7時半くらいから来ると聞いていたから、もう1時間経ったことになる。
いつの間に。イシュリナさんの豆知識も合わさって、授業といっても差し支えないくらいの説明に夢中で気付かなかった。
ベテランの方ばかりだから年長者が多いのかと思いきや、クルビスさんくらいの若そうなひともいて、年齢はまちまちだった。
「おはようございます。トカゲの一族、ピッケです。本日はよろしくご指導願います。」
「おはようございます。里見遥加です。こちらこそよろしくお願いします。」
皆さん、イシュリナさんがいることに驚きつつも私の方に挨拶にきてくれた。
年齢的にも立場的にもイシュリナさんやウジャータさんが先かなあとか思っていたんだけど、私の料理教室だから最初に私、その次にウジャータさん、そしてイシュリナさんやクルビスさんの順に挨拶ラッシュが始まった。
皆さん、素人同然の私にも丁寧に接して下さる。
魔素も楽しそうというか、浮足立ってる感じで、今日の料理教室を楽しみにしてくれているようだ。
8時前にはきちんと全員そろって、始めることになった。
調理場に立つというわけでなく、ウジャータさんの提案で真ん中の食材のまわりに集まってもらうことになった。
「何かを伝えたいときはお顔が近い方がよろしいですわ。」
その一言でお任せしたんだけど、きっとウジャータさんなりの経験論だろう。
私も、教えると言ったって偉ぶるつもりもないし、少ない人数でやるんだから近い方がいいと思った。
最初は私の挨拶から。
なぜこの料理教室をしようと思ったのか、なぜレシピを公開しようと思ったのか。きちんと伝えておかないといけない。
「あらためまして、里見遥加です。本日は私の故郷のレシピを学ぶために集まって頂きありがとうございます。この料理教室の目的は私の故郷のレシピを無くさないために多くの方に知ってもらうことです。
ご存知の方も多いと思いますが、私の故郷はずっと北の方にある離れた場所です。とても寒い地域ですが、山と海に挟まれて多くの実りがあり、多彩なレシピがありました。」
ズバッと本題に入って、事情説明を始める。
表向き、私は故郷でただひとり生き残ったことになっている。
黒の単色だからそれは説得力があったらしく、事情が事情だけに今も特に聞かれることはない。
式の前に散々流れた情報だからか、どのひとからも驚いたり気まずいような魔素は感じられなかった。
まあ、この情報が前提でこの料理教室があるわけだし、もう少し詳しい情報だって各一族の長さまから聞いているだろう。
「私が知るのはそのうちの少しですが、このまま誰にも知られなければ、それも埋もれて忘れ去られてしまうでしょう。それはあまりに悲しく、また惜しいことだと思いました。
しかし、街にレシピを登録したとしても、まったく見たことも聞いたこともない材料を使ったレシピだけあっても使ってもらえないでしょう。そこで、ウジャータ様にご協力いただき、ルシェモモで手に入る材料で再現したレシピを作りました。」
ここで、事前に作っておいたレシピを示す。
カラフルなそれに受講者たちは驚いてるようだ。
「本日からこのレシピはルシェモモ初の公開レシピとなりどなたでも閲覧自由です。ですが、レシピだけでは伝わらないコツなどもありますので、この料理教室で広めていきたいと思っています。」
あまり難しい表現は避けて、なるべく短く、簡潔に目的をはっきり言う。
「公開レシピ」という方法を取ることも忘れずに。これが一番厄介だけどね。